黒猫ネロの帰郷(エルケ・ハイデンライヒ)

2005-10-23 22:13:57 | 書評
0181e15b.jpg世界的なベストセラーになった「ヌレエフの犬」は高名なダンサーのヌレエフが、カポーティ家のパーティの縁で面倒をみることになった犬が、飼い主の死後、ダンスを覚えてヌレエフの墓前でステップを切る話だが、それに先立ち書かれた、「黒猫ネロの帰郷」も同種の筋立てだ。

まず嫌われ者の暴力猫だったネロが登場。イタリア南部の農家でのことだ。そして近くの別荘にドイツ人家族が訪れた際に、双子の妹のローザとともに、ドイツ人夫妻に媚を売ることに成功。そのまま、ドイツに移住し、都会猫として、縄張りを張るわけだ。そして、長い期間のドイツ生活の末、黒い毛並みにも白いものが混じるようになる。そして妹のローザが病気で亡くなる。

そのうち、またドイツ人夫妻がイタリアの別荘に行く際、年老いたネロを連れて帰るのだが、ここで大脱走することになり、またもイタリアの農家に年老いた体を休めることになるということで、あっさり書くと「帰ってきた寅さん」みたいで面白くないのが、ドイツではベストセラーになった。解説を読むと、イタリアの生活にあこがれるドイツ人に受けた、ということだそうだが、そうは読めないのだが。まあ、近くの国にあこがれて迷惑な戦争を始めた国ではあるから、隣の芝生が青く見え過ぎるのだろうか・・

しかし、後でよく考えると、黒猫ネロの右足の先端が白くなっているという点が何度も強調されているのだが、何かを象徴しているのだろうか。

また、こども向きの童話にしては、「ネロ」はイタリアでもドイツでもしょっちゅう子ネズミをつかまえて、きれいに食い尽くしてから、脾臓をぺっと吐き出すのだが、内容が残酷ではないだろうか(猫の本質はそういうものかもしれないが)。

以前、ミヒャエルエンデの罠にはまり、長編作品をかたっぱしに読んだのだが、ハイデンライヒは寡作なので、溺れることはないだろう(たぶん)。