「The Hankyoreh」 2023-11-22 07:43
■爆弾で14人の甥や姪を一度に失う…子どもにテロの責任を問うな
[ハンギョレ21]ホモ・ミグランス
極右連立政権として政権延命「ネタニヤフの戦争」の様相
死者の40%は子ども…インフラ破壊で集計中断
【写真】英国ロンドンで活動中のガザ地区出身のジャーナリスト、アフメド・アルナウクさんが2019年に故郷で甥や姪と撮った写真。この子どもたちは2023年10月のイスラエル軍による空爆の際にたった1発の爆弾で全員死亡した=同氏のインスタグラムより//ハンギョレ新聞社
「『声がない』などということはない。意図的に沈黙を強いられた人々、選択的に聞こえなくされた人々がいるだけだ」。
インドの作家、アルンダティ・ロイが2004年にシドニー平和賞の受賞演説で述べた言葉だ。ロイは1997年に初の小説『小さきものたちの神』で英文学界最高の文学賞であるブッカー賞を受賞した。彼女は政治的暴力と新自由主義に抗して弱者の人権を代弁する人権活動家でもある。
◆民間人の被害を最小化する努力など眼中にないイスラエル
世の中には声を発しているのに聞こえない弱者、社会的マイノリティが数え切れないほどいる。中でも子どもは最も小さくて弱い存在だ。子どもは疾病、貧困、自然災害だけでなく、大人たちの暴力に対してもとてつもなく弱い。戦争は最悪だ。戦争は、人間の暴力性が極限にまで至っていながら黙認される事態だ。2023年10月7日にはじまったイスラエルとパレスチナのイスラム武装政治組織ハマスの戦争も同じだ。
ハマスによる奇襲攻撃とイスラエルの全面戦争宣言ではじまった戦争は、7週目に入った。彼らの戦争は現代版「ダビデとゴリアテの対決」だ。旧約聖書時代には、後にイスラエル王国の王となった少年ダビデが投石でペリシテ(今のパレスチナ)の戦士ゴリアテを倒したが、今は真逆だ。圧倒的な軍事力を前面に押し立てたイスラエルが、面積が狭く人口が密集しているガザ地区に一方的な攻撃を浴びせている。民間人居住地域と住宅はもちろん、病院と学校、さらには負傷者を乗せた救急車すらも空爆と砲撃の標的となる。イスラエルは、ハマスが民間人を盾として悪用しており、病院の地下トンネルを軍事施設として用いていると主張している。しかし、ガザの住民には避難命令を繰り返すばかりで、民間人の被害を回避したり最小限に抑えたりする努力や戦術は眼中にもないようだ。
ハマスがイスラエルの領土に侵入して音楽祭を楽しんでいた1500人あまりの民間人を手当たり次第に殺し、数百人を人質に取ったのは弁解の余地のない戦争犯罪だ。まともな武器さえ確保が困難な被抑圧者が強大な占領勢力に抗してゲリラ戦術を用いることもあるが、ハマスの民間人攻撃は決して認められない蛮行だ。しかし、「自衛権」を掲げて反撃をはじめたイスラエル軍の無差別攻撃と民間人殺傷の方がよっぽど深刻だ。同じ戦争犯罪ではあるものの、その残酷さは比較にならないほどだ。
武装集団が民間人の密集地を襲って銃を乱射するのは「野蛮なテロ」だろうか。当然だ。では、正規軍が戦闘機やミサイル、戦車、野砲の砲弾、恐ろしい殺傷兵器である白リン弾を民間人の密集地域に投下するのは「文明化した戦闘」行為なのか。発射される兵器、特に遠距離発射兵器であるほど、加害者(攻撃者)は被害者(犠牲者)に直に対面することなく殺傷できるため、罪の意識が軽くなる。そのうえ、直接手にする凶器や個人用火器ではなく先端科学技術が用いられた兵器であるほど、殺傷の野蛮さは隠され、洗練されたもののように見えるという錯視現象を引き起こす。しかし、犠牲者の命を奪う時の残酷さは後者の方が上だ。兵器と戦術が戦争の悲惨さを相殺することはできず、あらゆる戦争はそれそのものが絶対悪だ。
【写真】11月14日、パレスチナのガザ地区南部のハンユニスの病院付近で、イスラエル軍による空爆で家族と親戚を失った人々が悲しみながら歩いている=カーンユニス/AP・聯合ニュース
◆一家皆殺しはよくあることだが、もはや死者の集計すら困難
ガザ地区出身のアフメド・アルナウクさんは、10月22日のイスラエル軍による空爆で父親と兄弟姉妹、14人の甥(おい)や姪(めい)など、21人の家族親戚を一度に失った。彼はリーズ大学で「国際ジャーナリズム」の修士号を取得し、2019年からロンドンで暮らしながらジャーナリスト兼パレスチナ支援団体の活動家として働いている。11月11日に彼がBBCの記者に見せた家族写真には、無邪気でかわいい甥や姪が明るく笑っている様子が写っている。4年前に故郷で撮ったものだ。写真の中の子どもたちはもうこの世にいない。
同じ日、英日刊紙「ガーディアン」は、カナダに住むパレスチナ出身のジャーナリスト、パレス・アルグルさんの悲劇を伝えた。ガザ地区に住む親戚の家が爆撃され、36人の親戚が死亡したという。一家が皆殺しにされるという惨状はガザ地区のどこでも見られる。パレスチナ住民を含むアラブ人には祖父母、親子3世代が一つの家(建物)に集住して独立した世帯をなすという伝統があるからだ。
アルナウクさんの活動する団体の一つが「ウィ・アー・ノット・ナンバーズ(We Are Not Numbers)」、すなわち「私たちは数字ではない」だ。しかしイスラエルとパレスチナとの紛争だけでなくあらゆる戦争において、ほとんどの犠牲者は、特に死者が増えれば増えるほど、それぞれの育んできた夢と人生は抹消され、冷たい数字としてのみ記録される。ガザ保健省は11月10日、戦争勃発からの累計死者数は1万1078人、負傷者は2万7490人にのぼると発表した。死者には子どもが4506人(40.7%)、女性が3078人(27.8%)、老人が678人(6.1%)含まれている。4人に3人が子ども、女性、老人だ。ガザ保健省はこの発表を最後に集計を中断している。イスラエル軍による無差別攻撃で医療インフラが崩壊し、死傷者の集計が不可能になったからだ。
同日、世界保健機関(WHO)の事務局長は国連安全保障理事会で「ガザ地区では平均すると10分毎に1人の子どもが死んでいっている。どこも、誰も安全ではない」と警告した。特に「10月7日以降、パレスチナのガザ地区とヨルダン川西岸地区の医療施設に対する攻撃が250件以上確認されている。…ガザ地区の医療システムは崩壊しつつある」と強調した。11月6日には国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「イスラエル軍の地上作戦と相次ぐ爆撃で民間人、病院、難民キャンプ、イスラム寺院、教会、避難所、国連施設がすべて攻撃を受けている。…ガザ地区は子どもたちの墓場と化している」と述べ、即時休戦を求めている。開戦後、ガザ地区の学校の51%に当たる258校の校舎が被害を受けたとも発表されている。
【写真】ガザ地区最大の医療施設アル・シファ病院の医療スタッフが11月15日(現地時間)、イスラエルの急襲後、煙の立ち込める廊下で患者を運んでいる/ロイター・聨合ニュース
◆ガザでは子どもが10分に1人死んでいる
今回の戦争は、子どもの死がこれまでのどの戦争よりも深刻だ。戦争勃発から3週間がたった10月29日、子ども支援の国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は、ガザ地区で報告された子どもの死者数(この日の時点で3257人)が全世界の紛争地域で2019年以降の1年間で死亡した犠牲者の数を超えたと明らかにした。これは、最近3年間に世界20カ国以上で武力衝突に巻き込まれて死亡した子どもの数より多い。開戦からの1カ月間で、ガザ地区では1日平均で少なくとも136人、10分に1人の割合で子どもがイスラエル軍による空爆で命を失った。倒壊した建物のがれきの山にどれほど多くの子どもが埋もれているかは、十分に把握されていない。
南北に細長く伸びるガザ地区は、世界で最も人口密度が高い場所の一つだ。約365平方キロの土地に237万人あまりが住んでいる。1平方キロ当たり実に6500人だ。人口が均等に分布しているわけではないため、北部のガザ市に人口の40%が集中している。ユニセフ(UNICEF)によると、ガザの人口の47%が18歳未満の子どもと青少年だ。イスラエル軍の人命被害は相対的に少ない。イスラエル国防軍は11月14日、「ガザ地区北部でハマスのテロリストと戦っていた兵士がさらに2人死亡し、イスラエルの地上作戦での死者数は46人となった」と発表している。
ここまで来ると、イスラエルとハマスの戦争は言葉が戦争であるだけで、一方的な民間人虐殺に他ならない。国連は11月2日に発表した声明で「特にジャバリヤ難民キャンプに対するイスラエルの空爆は厚かましい国際法違反であり、戦争犯罪だ。女性や子どもなどの民間人が保護される収容所を攻撃することは、戦闘員と民間人の比例原則と区別原則に完全に違反する」と批判した。
イスラエルによるガザへの侵攻は今回が初めてではない。2006年のパレスチナ総選挙でハマスが圧勝し、ガザ地区での独占的権力を確保して以来、イスラエルはガザ地区を全面封鎖し、水、電気、ガスなどを統制するというやり方で命綱を握ってきた。イスラエルとハマスとの間では大小の武力衝突が日常化し、イスラエルがガザ地区に進撃する戦争も4回も起きた。
特に今回の戦争は「ネタニヤフの戦争」となっている。イスラエルの日刊紙「ハアレツ」は11月13日、「ネタニヤフ首相は、ガザ地区での長期間の戦争が批判世論を緩和し、自身の権力を維持させると信じている」とし、「さらに重要なのは、10月7日の惨事(ハマスによる奇襲攻撃とイスラエルの情報の失敗)に対するあらゆる個人的責任を回避し、(ハマスに対する)非難を広めることができると考えていることだ」と指摘した。ネタニヤフ首相は、在任中の不正腐敗容疑でイスラエルの現職首相として初めて起訴され、極右シオニスト諸政党と連立して政権を延命させるというやり方で刑事処罰を回避してきた。
◆ユダヤ人とパレスチナ人の苦しみに公平に共感せよ
韓国ドイツ史学会(チョン・ジンソン会長、釜山教育大学教授)は10月31日、「イスラエルとドイツの知識人仲間に告ぐ」と題する声明を韓国語、ドイツ語、英語の3カ国語で発表した。
声明はまず、「中東に対する欧州の植民地統治の矛盾、ナチス政権の反人倫的犯罪などが重なった錯綜の結果としてイスラエルが建国して75年がたち、その後、この地域に平和というものはなかった」とし、「ハマスの攻撃に対する悲しみと怒りには深く共感するが、臨界点を超える集団的怒りが揮発性ではありえないということも忘れることができない」ということを明確にした。そして「文明はどこに行ってしまったのかと問わざるを得ないやり方で暴力が暴力を生む現状、これを止めるための努力が切実に求められている」として「今すぐ、ガザ地区に対する封鎖と爆撃をやめ、対話をはじめるよう、あなたたちの政府を説得せよ」と述べた。
特に声明の最後の部分は、「知識人仲間」だけでなく国連をはじめとする国際社会にとっても痛切に響く。以下に書き出してみる。
「すべての人間は同等に尊厳を持っており、すべての人の苦痛と死は同等な道徳的基準で測らなければならない。ホロコーストが私たちに衝撃を与えたのは、それが特定の集団に試練と苦痛を与えたからではなく、それこそ人類に対する挑発だったからだ。ユダヤ人もパレスチナ人も、いずれも人類という家族だ。ネタニヤフ政権の反人道的犯罪に対する批判を反ユダヤ主義と同一視することはできない。ドイツの知識人はユダヤ人とパレスチナ人の苦しみに公平に共感せよ。パレスチナ人全体にハマスのテロの結果に対する責任を問うな。ハマスの無差別テロに対してと同様に、イスラエルの無差別攻撃に対しても怒れ」。
チョ・イルチュン|ハンギョレ土曜版先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
韓国語原文入力:2023-11-19 16:45
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