樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ベートーベンはツリーウォッチャー

2010年07月08日 | 木と作家
私は一人の人間を愛する以上に一本の樹を愛する。
そう書き残しているのはベートーベン。あの恐い顔をした偉大な作曲家は意外にもツリーウォッチャーだったようです。
弟子の一人シントラーも、「ベートーベン先生に同行して野原や山や谷を歩く幸福が数えきれないほど度々私に与えられた。彼は私に音楽の指導をしたのと同様に自然の研究を指導した」と語っていますから、植物や動物を観察しながら森を散策するのが好きだったのでしょう。


自然観察が好きだったベートーベン

ご存知のように、ベートーベンは音楽家としては致命的な聴覚障害に陥ります。そのためにほとんどの人間関係を遮断して、言わば自然の中に閉じこもった時期があったようで、手記には次のように書いています。
「田園にいれば私の不幸な聴覚も誰もいじめない。そこでは一つ一つの樹木が私に向かって「神聖だ、神聖だ」と語りかけるようだ。森の中の歓喜の恍惚! 誰がこれらのことを表現できるだろう?」
そうした体験から生まれたのが交響曲第6番『田園』。みなさんも一度は聴いたことがあるはずの曲です。「心に愛がなければ、どんなに美しい言葉も相手の胸に響かない。聖パウロの言葉より…」というナレーションで始まるキリスト教会の番組がありますが、そのバックに流れているのが『田園』。
ついでながら、あの教会の本部は京都にあって、その番組『心のともしび』は私が就職した広告代理店が扱っていました。小さな地方代理店の唯一の全国ネットでした。


ベートーベンが故郷で目にしたであろうポプラ

その『田園』の第2楽章ではフルートやピッコロで小鳥のさえずりを表現していますが、そのうちの一つは明らかにカッコウです。
ベートーベンをモデルにした小説『ジャン・クリストフ』でノーベル文学賞を受賞したロマン・ロランは、「私は涙を禁じえない。なぜならこの曲を書いた時、すでにベートーベンの耳は聴こえなくなっていたのだから。彼は心の中に響く小鳥たちの声を音楽にしたのだ」と記しています。
また、ベートーベンの故郷・ドイツのボンについて、ライン川の霧に包まれたポプラの林や柳が茂った牧場などの風景を描写しながら、それが原点になったのだろうとも書いています。
大作曲家は若い頃、ライン川の河原でポプラの木に止まって託卵相手を探しながら鳴いているカッコウを見ていたのかな~
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4 コメント

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Unknown (guitarbird)
2010-07-09 05:34:04
おはようございます
クラシックでもよく、モーツァルト派かベートーヴェン派か
という話になりましたが、私はベートーヴェン派でした(笑)。
もちろんモーツァルトも好きですが、いちばん好きなのはベートーヴェンです。
この記事を読んで、それは当然のことなのだ、と思いました(笑)。
田園は小学生の頃、第一楽章の最初の有名な部分が、
校内放送で流れていたのを覚えています。
いいですよね。
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私も (fagus06)
2010-07-09 08:23:15
この記事を書いて、ベートーベンに親近感を持ちました。ロックミュージックの世界では、「ロール・オーバー・ベートーベン」ですけどね(笑)。
うちは、妻がチャイコフスキーが好きなので、チャイコ派かな? 先日、バイオリン協奏曲が演奏される「オーケストラ」というロシアの映画を見にいきましたが、なかなか良かったです。
「田園」は校内放送にはぴったりかも知れませんね。
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Unknown (scops)
2010-07-11 12:14:10
ベートーベンが自然大好き人間だったとは知りませんでした。wikipediaにも載ってないお話ですね。すごい!
このエピソードだけで、すごく親近感を覚えるから不思議ですよね。
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ベートーベンが (fagus06)
2010-07-12 08:24:41
よく歩いたウィーン郊外の森には、「ベートーベンの道」という散策路が残っているそうです。
「ジョン・レノンが愛した森 夏目漱石が癒された森」という本で読んだ話です。日本の森林セラピーの第一人者が書いた本で、有名人と森の関係が綴ってあります。なかなか面白かったですよ。
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