樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

キジとヘビ

2020年10月15日 | 野鳥
下の絵は葛飾北斎が描いた「雉と蛇」。昔から、キジは自分の体にヘビを巻きつかせ、強く羽ばたいてズタズタにちぎり、ゆっくり食べるという言い伝えがあったようで、そのシーンを描いた版画です。北斎はこの衝撃的な題材が気に入っていたようで、他の作品にも描いています。



地上に営巣するキジと、その卵を丸呑みするヘビは敵対関係にあるので、そうした言い伝えが生まれたのでしょうが、バードウォッチャーなら「そんなことはあり得ない」と思うでしょう。私もこの絵を見た時はそう思いました。
ところが、日本野鳥の会の創始者・中西悟堂の本を読んでいると、以下の話が出てきました。悟堂が富士山でキジの巣の近くにテントを張って生態を観察していると、ある日アオダイショウが卵を飲みに来たところに、雄キジが戻ってきてバッタリ出くわします。
蛇の方でも思いがけなく正面衝突をした雄雉に驚いた様子で進行を中止したが、それもほんの2、3分で、雉が立ちすくむのをじっと見据えた後にズルリズルリと雉に向かって近づいて行った。やがてその距離は半メートルばかりになった。と思った瞬間に、蛇のからだは一躍して雉に飛びついていたが、もうそのときは、蛇は雉の胴を一巻き巻き、雉はもろくも横倒しにされて、脚で地面をふんばりながらもがいていた。
そして蛇の方へと顔をねじむけながら、隙あらば、蛇に一撃を加えようと、目を興奮で赤くしているのである。しかしその間にも蛇のからだは弾みを打って、二巻き、三巻き、そのたびに雉の体が締められてゆく。(中略)
その長い胴が四巻き目を巻くときであった。地を蹴った脚の力で立ち上がった雉が、凄まじいホロを打って、体力のすべてをこめた羽ばたきと共に、ぐるぐる巻いた蛇を一挙にはじきとばし、蛇はその力でしたたかに地上に投げ出されて、紐のように伸びてしまった。

悟堂がその蛇を確認したところ、脊椎骨が3カ所折れてこときれていたそうです。さらに数年後、知人が朝鮮で目撃した全く同じような雉と蛇の話を聞きます。なお、「ホロを打つ」とは、キジが翼を大きく羽ばたくこと。
わざと巻きつかせ、羽ばたいてちぎって食べるという話はオーバーですが、キジがホロ打ちでヘビを殺すことは事実のようです。
北斎の絵と同じ「雉と蛇」と題された短文ですが、悟堂は絵のことを知らなかったようで、そのことには触れていません。
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2 コメント

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Unknown (kazuyoo60)
2020-10-15 10:02:44
鳥がほかの卵を食べるのは見聞きのうちです。キジが蛇をそんな風に撃退するのですね。
すごい迫力を感じる絵です。大サイズの青大将、我が家にも多分住んでいると思います。
70年近く前の我が家には土塀がありました。その土塀を取り壊したら、沢山の青大将が出てきたのを覚えています。私は小さくて、びっくりしていただけですが。毎年のように生まれて間もない青大将は見ています。この頃はサイズが大きなのには出会っていません。
記事はブログでも何度か拝見です。里山の鳥、案外と人との出会いは多いようです。7027
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kazuyo様 (fagus06)
2020-10-16 15:53:49
そうですか、アオダイショウが棲みついていたんですね。私はヘビ関係が苦手です。
キジが羽ばたきでヘビを殺すというのは、私もちょっと信じがたいですが、中西悟堂がそう書いているので事実なんでしょうね。
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