樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

抜け雀

2013年11月14日 | 野鳥
京都市美術館で開催中の「竹内栖鳳展~近代日本画の巨人」を観てきました。地元の画家ということもあるのでしょうか、平日の午前中にもかかわらず、かなりの数の入場者でした。
美術展を観覧するとき、最初から全作品をじっくり観ると疲れるので、まず会場をさーっと歩いて概観してから、気になる作品を何点か絞ってじっくり観るようにしています。
今回、足が止まったのはやはりライオン。中でも目を奪われたのは、金屏風に墨一色で描かれた『獅子図』。他のライオンもそうですが、「ゴロゴロ…」という喉が鳴る音や獣の匂いまで伝わってくるような迫力でした。
竹内栖鳳はさまざまな動物を描いていて、ライオンのほかトラ、ゾウ、キツネ、ネコなども出品されていました。タカ、ゴイサギ、コサギ、カラス、ウグイスなど鳥も描いていますが、栖鳳といえばスズメでしょう。


「喜雀図」のアップ(今回の出品作とは別の作品)

栖鳳はスズメの絵をたくさん描いていますが、目指していたのは知恩院の『抜け雀』。狩野信政が紅白の菊の上に数羽の雀を描いたものの、飛び去って絵から消えたと言われている襖絵です。
以前ご紹介したように、落語にも、画家が描いた襖絵のスズメが絵から抜け出して飛び回る「抜け雀」という演目があります。多分、この知恩院の襖絵をネタにしたのでしょう。
栖鳳がこの落語を聞いたかどうか分かりませんが、写実の極みとして『抜け雀』を目標にしていたわけです。
写実を目指して油絵を描いていた高校時代、クラスの女の子に「写実的な絵にどんな意味があるの? 写真を撮れば済むじゃない」と問われて悩みました。以来、写実的ではない絵を観たり描いたりするようになり、「写実的な絵は技術さえあれば誰でも描けるから価値がない」と考えるようになりました。
しかし、栖鳳の写実画を観て、「そんな簡単に片づけられるものではない」と思いました。一時ブームになったスーパーリアリズムとも違って、「鬼気迫る写実」とも言うべきリアリズム…。すごい画家です。
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6 コメント

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見てこられましたか (scops)
2013-11-14 10:56:31
同じ感想でも、やっぱりfagusさんのは格調高いなあ・・・(笑)
「鬼気迫る写実」とも言うべきリアリズム…、そうなんです。写真では表せない生き生きとした動き。
線の勢いと強弱、そして少しデフォルメした表現などで、独特のリアリズムを描いているのだと思います。

私は栖鳳のファンになってもう40年近くなります。最初は感覚的に「好き」だっただけなのですが、何回も展覧会に足を運んだり作品集を見たりしていると、絵の素人の私にもそのすごさが年々実感できるようになって来ました。
期間中にもう一回行く予定です。
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scopsさんは (fagus06)
2013-11-15 06:54:25
栖鳳ファン歴40年ですか、すごいな~。お家もご近所だったんですね。
お店にも雀の絵を飾っておられて、ブログにも掲載されましたね。今回の展示でも前半、後半2回もいらっしゃるようで、熱心ですな~。
おっしゃるように、金屏風のライオンの絵は筆で一気に描いた、勢いのあるものでした。それでいながら、生き生きとしたリアルな獣が表現されている。
猫の絵もありましたが、あれは沼津で見つけた猫を飼い主に交渉して自宅に持ち帰って描いたそうです。対象に対する迫り方が尋常ではないですね。
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ふたたび (scops)
2013-11-15 11:27:00
代表作・重要文化財の「班猫」ですね。
ほかにもいろいろエピソードがあるようです。たとえば、本来なら「班」の字は「斑(まだら)」にならなければ意味がおかしいのですが、栖鳳は「班猫(はんびょう)」と名付けたそうです。単なる間違いかもしれませんが、おもしろいですね。
それから、実際の猫はあそこまで首が回らないそうです。これも写実を超えた写実の表現方法なのかもしれません。
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scopsさん (fagus06)
2013-11-17 06:25:10
ありがとうございます。そういう情報は知りませんでした。
実は、あの『班猫』はペット関係の仕事のネタにするつもりでしたが、重要文化財の話と首が回らない話を使わせてもらいます。
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Unknown (guitarbird)
2013-11-17 12:59:43
こんにちわ
私は絵も描かないしこの方も知らなかったのですが、純粋にリアルに描けるのはすごいと思います。
写真だと技術的に再現不可能な部分などもあり、より人間の目で見た感じに近く描くことも可能なのではないかと思います。
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そうですね (fagus06)
2013-11-18 07:01:19
もちろん写真は写真で、撮る人の感性が表れるでしょうが、絵画の写実は描く人の目のつけどころとか筆の運び方とか一人ひとり違いますから、写真の写実とは違いますね。
竹内栖鳳は東京の横山大観と「東の大観、西の栖鳳」と並び称された画家なので、関西の方が有名なのかも知れません。
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