樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

命を救った樹

2007年12月14日 | 木と歴史
10月末にこんなニュースがありました。1945年、あるユダヤ人がアウシュビッツ強制収容所から逃走し、民家の裏庭にあったカバノキの空洞に9時間隠れて命拾いをした。そして今年、83歳になったその人が60年ぶりに自分の命を救ったカバノキと対面した。
長い歴史の中には、こういう話はたくさんあったはずです。日本にも有名な話が残っています。
源頼朝が平氏との合戦に敗れて逃げたとき、倒木の洞に隠れて「八幡大菩薩」を唱えた。追っ手は洞の中に弓を突っ込んで探ったが、ハトが飛び出したので「誰もいない」とあきらめた。
この話は『源平盛衰記』に出てきますが、ほかにも聖徳太子が物部守屋と戦った際にムクノキの空洞に隠れて難を逃れた話や、天武天皇が大友皇子に攻められたときエノキの空洞に隠れて助かった話もあります。

       
     (京都御所にあるムクノキの巨木。人が隠れるほど大きく成長します)

以上は樹が人の命を救った話ですが、逆のケースもあります。源頼朝の子である実朝は、イチョウの大木に隠れて待ち伏せした公卿(くぎょう)に暗殺されました。親は樹で命拾いし、子は樹で命を落すという皮肉な運命です。
鎌倉の鶴岡八幡宮にはその伝説の「隠れ銀杏」が今も残っています。ただし、その樹齢から考えて鎌倉時代には人が隠れるような巨木ではなかったはず、という樹木研究者もいます。

             
  (樹齢250年、幹周3mの宇治名木百選のイチョウ。これなら隠れられる?)

実朝が暗殺されて頼朝の直系が絶えたために北条氏に実権が移ったようです。歴史は人間が変えるのでしょうが、その傍らで樹木もこんな形でその節目に関わっているんですね。
コメント (2)
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