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樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

柏餅と粽(ちまき)

2007年05月02日 | 木と飲食
柏餅は鯉のぼりと共に「子どもの日」の定番アイテムになっています。でも、童謡『せいくらべ』で、「柱の傷はおととしの 5月5日のせいくらべ 粽食べ食べ兄さんが測ってくれた…」と歌われているように、もともと端午の節句に食べるのは粽でした。
粽は中国の英雄・屈原の命日(5月5日)に供えたのが始まりで、端午の節句に粽を食べるという風習も中国から渡ってきたものです。その粽がなぜ、いつごろ柏餅に変化したのでしょう?

         

柏の葉は紅葉しても落葉せず、若葉が出る頃になってようやく落ちます。日本ではこの現象を「子どもが生まれるまで親は死なない」と見立て、柏の葉を子孫繁栄のシンボルにしたようです。柏餅が生まれたのは意外に新しく、江戸時代後期。おそらく、子孫繁栄の意味を込めて餅を柏の葉で包み、祝い事として配ったのでしょう。
端午の節句の頃に(旧暦ではなおさら)柏の葉はまだ開きませんから、当時は5月5日に柏餅は食べられなかったはずです。現在の風習が生まれたのは、柏の葉を翌年まで保存する技術が生まれて以降でしょう。

      
       (庭のカシワも展葉したばかり。左の茶色が去年の葉)

つまり、柏餅は葉の保存方法が発明されて以降、中国伝来の端午の節句に結び付けられて5月5日に食べるようになった。同時に、「子孫繁栄」のシンボルが「子どもの健康」のシンボルに転化した…。それが私の推測です。
柏餅の葉は初夏に摘み、蒸した後、塩漬けにしたり、乾燥して真空パックで保存するそうです。この分野でも国産品はコスト競争に負け、ほとんどが中国産や韓国産とか。日本ではわずかに青森県で作っているだけで、外国産が1枚2円に対して国産品は1枚4円。それでも香りが違うらしく、高級和菓子店は国産の葉を使うそうです。
なお、西日本はカシワが少ないのでサルトリイバラの葉に包むとか、「柏餅」ではなく「いばら餅」と呼ぶそうですが、私はまだお目にかかったことがありません。
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花より桜餅

2007年04月04日 | 木と飲食
花より団子、という人のために桜餅の話を…。
桜餅は享保2年(1717)に、桜の名所・隅田川の近くで寺男として働いていた山本新六という人が、堤に落ちている多数の葉の利用を思い立って作ったのが始まりだそうです。
桜餅を包んでいるのはオオシマザクラの葉。名前の通り、伊豆大島を中心に分布する野生種です。現在、伊豆半島の松崎町が主な産地で、約300戸の農家が5月~8月に葉を収穫し、専門業者が塩漬けにしてから出荷するそうで、その数4億8000万枚。すごい数ですね。

      
         (近所の和菓子屋さんで買った桜餅)

私も知らなかったのですが、写真のようなピンクのお餅は関西風で、関東では柏餅と同じ白いお餅だそうです。関東出身の妻に確かめると、「そうや~」と関西弁で答えました。関西ではもち米を乾燥させて粗挽きした道明寺粉に食紅を混ぜた皮、関東は小麦粉を使った皮で餡を包むのです。
みなさんは桜餅を葉っぱごと食べます? それとも葉っぱは取り除いて食べます? 桜湯も同じですが、桜の葉っぱの香りはクマリンという物質で、塩漬けにするとあの匂いが出るようです。
桜餅を考案した山本新六のお店は「山本や」という屋号で現在も営業しています。ここの桜餅は、葉を2~3枚使っているのが特徴です。桜餅で280年もの伝統を築いているんですね。
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カップの樽酒

2007年03月05日 | 木と飲食
前回に続いて、「杉と酒」の話。
以前、テレビで杉の木片をセットしたカップ酒があるというニュースを見ました。薄い杉のシートをカップ酒に浸して、樽酒のような香りをつけて飲むというユニークな日本酒です。
飲んでみたかったのですが、関西では入手できないので、「北の錦」という北海道の蔵元に直接注文して送ってもらいました。

      

箱の中には普通のカップ酒と杉のシートが入っています。説明書によると「日本酒が世界に誇る『たる酒』を気軽に楽しんでいただきたいと秋田の酒樽屋と北海道の造り酒屋が二人三脚で商品化しました」。シートの袋には「酒樽用秋田杉」と書いてあります。
この杉のシートを丸めてカップの中に入れ、10分以上おくと木の香りが出てくるそうです。私は比較するために、杉のシートを入れる前にひと口飲み、セット後20分くらいしてからいただきました。
シートを入れる前はどちらかというと辛口のお酒でしたが、シートを入れた後は木の甘い香りがほのかに漂って樽酒の風味がしました。

         

以前、「樽と桶はどう違う?」で「日本酒の樽には杉の板目を使う」と書きましたが、樽酒は杉の木香(きが)が移るので美味しく感じます。昔は樽の中にわざわざ杉の切れ端を入れたこともあったようです。
この「自分でつくる樽酒カップ」は1個483円。関西だと送料が1,560円かかりますが、お酒の好きな方はぜひ一度トライしてみてください。私は嫌いな方じゃないので4個注文しました。
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酒と杉

2007年03月02日 | 木と飲食
私が住む宇治市は京都市伏見区に接しており、近くには「伏見の酒」をつくる蔵が建ち並んでいます。そこを歩くと、あちこちに蜂の巣のような丸い物体がぶら下がっています。大きさはサッカーボールくらい。杉の枝を束ねて球形にしたもので、「杉玉」と言います。

      
      (伏見の酒蔵にはあちこちに杉玉がぶら下がっています)

この杉玉の由来にはいくつかの説があって、一つは「新酒ができましたよ」という目印にしたという説。緑の葉が茶色く変色する具合を見て、熟成された飲み頃を判断したそうです。なぜ杉なのかについて、「杉材を樽に使った後、枝や葉が残るので杉玉に使った」という話をどこかで読みました。
もう一つの説は、酒の神様を祀る大神神社(奈良県桜井市三輪)のご神体が杉だからという説。その杉の枝をいただいて軒に吊るし、良い酒ができることを祈願したのだそうです。

      
      (酒蔵の板壁も杉材。街には酒の匂いが漂っています。)

いずれにしても、現在は酒屋の看板として常時吊るされていることも多いようです。杉の樽に詰めたり、酒蔵に杉玉を吊るしたり、日本酒と杉はなぜか因縁が深いです。
ちなみに、私たちが目にする杉は日本の固有種で、スギ科スギ属の1属1種。外国には以前ご紹介したメタセコイヤなど別の属のスギ科の樹がありますが、日本にあるスギ科の樹はこの1種類のみ。秋田杉とか北山杉というのはあくまでも産地名であって、植物学的には同じ種類です。
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奈良と柿

2007年02月26日 | 木と飲食
関西以外の方はあまりご存知ないかも知れませんが、奈良の名物に柿の葉寿司があります。ひと口サイズの鯖寿司が、1枚の柿の葉で四角く包んであります。
熊野灘で獲れた鯖を紀ノ川を遡って内陸部に運び、奈良に多い柿の葉で包んだのがその始まりだとか。若狭で捕れた鯖を京都に運んで鯖寿司にしたのと同じ経緯ですね。
柿の葉寿司に使う葉は5月頃から採り入れ、11月の紅葉も使うそうです。冬は、夏の間に確保して塩漬けで保存しておいた葉を使うらしいです。柿の葉には殺菌作用があるのでしょう。

      

柿は、実(み)は生のままや干し柿にして食べますし、木材は茶道具などの高級家具やゴルフクラブのヘッドに使います。葉はお寿司を包むだけではなく、柿の葉茶にもします。
さらに、柿の渋は和紙の防水や魚網の防腐に使いますし、実についたヘタさえシャックリを止める妙薬になるそうです。捨てる所がないほど、人間の暮らしに役立っています。
その柿と奈良はなぜか昔から因縁が深いようです。万葉の歌人・柿本人麻呂の姓は家の前に柿の木があったからだと言いますし、「柿くえば鐘が鳴るなり法隆寺」という正岡子規の有名な俳句もあります。また、現在の奈良県知事の姓は「柿本」です。
奈良は鹿だけじゃないんですよ。
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神様の食べ物

2006年11月08日 | 木と飲食
散歩していても、赤い柿の実に目を奪われるようになりました。
カキの学名は、Diospyros Kaki (ディオスピロス・カキ)。1775年に来日したスウェーデン人の医師ツンベルグが柿の実の美味しさに感動して、「神様の食べ物」という意味の「ディオスピロス」を属名に、日本名の「カキ」を種名にして命名しました。

      
     (メジロがつついているのが見えますか?鳥も柿が大好きです。)

私は田舎育ちで、生家の裏庭には柿の木があり、秋になると赤い実を取って食べました。いくらでも食べ放題です。近所からもいただきました。
それが当たりまえだったので、大きくなって都会に出てきたとき、果物屋さんでお金を払って柿を買うという感覚が理解できませんでした。ようやくお金を払って食べるようになったのは、40歳位だったと記憶しています。

柿にもブランドがあるようで、美濃の蜂屋が有名です。昔は、この柿100個と米1石2斗が取引されたそうですから、よほど美味しいのでしょう。宇治市のひと山奥に宇治田原という町があって、コロ柿という干し柿の産地として知られています。
日本の図鑑には「中国や朝鮮半島には渋柿しかない」と書いてありますが、韓国の学者は「朝鮮半島の南部には甘柿がある」と書いています。干し柿の作り方も大陸から伝わったようです。
私も干し柿は大好きで、お正月にはいつも1日に3つも4つも食べてしまいます。まさに「神様の食べ物」です。
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山の塩

2006年10月31日 | 木と飲食
私のフィールドのひとつ「天ヶ瀬森林公園」では、ヌルデが白い実をつけていました。
この実には塩分があって、昔は山間部で塩の代用品に使ったそうです。一応ウルシの仲間なので少し勇気がいりますが、指で触るとヌルヌルしています。その指を舐めてみると、確かに塩辛いです。

      
       (今は白いですが、秋が深まると茶色くなります。)

ヌルデはあまり有名な樹ではありませんが、けっこう人間の暮らしに貢献してきました。塩の代わりのほか、この樹に発生する虫こぶからは、昔の女性のお歯黒に使う染料が採取されました。以前にも書きましたが、材は護摩木に使われました。また、漆ではありませんが、樹液は塗りものに使ったそうで、名前の由来もここにあると言われています。

      
       (羽状複葉の葉の間に翼があるのはヌルデ。)

野山を歩くと普通に見られる樹で、見分け方は葉と葉の間にある翼。こんな葉を見つけたら、その実を舐めてみてください。天然の塩味です。キャンプの料理で塩を忘れたら、ヌルデの実で代用できるはずです。
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樽と桶はどう違う?

2006年08月10日 | 木と飲食
昨日、葛飾北斎の樽の絵を取り上げたので、樽つながりの話です。
酒樽とか醤油樽とは言いますが、酒桶とか醤油桶とは言いません。樽と桶は別物で、どう違うのかと言うと、板目の材を使うのが樽、柾目の材を使うのが桶。

      
       (酒樽にはスギの板目の材が使われています。)

酒や醤油、味噌など液体が染み出したり蒸発すると困るものは、板目の材で作った樽に入れます。逆に、液体を貯蔵するのが目的でない場合は、湿気を吸収して蒸れにくい柾目の材で作った桶に入れます。寿司桶などがそうです。桶という言葉は使いませんが、昔のおひつもそうですね。
「じゃあ、お湯をはる風呂は、なんで桶なの?」と言うと、お湯は液体ですが、貯蔵が目的ではないのと、肌触りがいいので柾目の桶なんだそうです。

      
        (わが家の寿司桶も柾目。材は多分サワラ。)

材料は、寿司桶やおひつはサワラ、日本酒の樽はスギ、ウィスキーの樽はオーク(=ナラ)。サントリーは今でもウィスキーの樽を内製していて、北米産のホワイトオークやスペイン産のコモンオークのほか、日本産のミズナラ(ジャパニーズオーク)も使うそうです。面白いことに、樽を締める帯鉄は20~30年で腐って切れてしまうのに、樽の木材は100年くらいもつそうです。
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蒲鉾の板

2006年07月17日 | 木と飲食
妻の実家は神奈川県。先日、帰省しましたので、お土産に小田原の蒲鉾をリクエストしました。いつもはイカの塩辛なんですが、木の本に「小田原の蒲鉾の板にはモミを使う」と書いてあったので、板が欲しくて・・・。
妻は「あんたは木のことしか頭にないの?」とあきれておりましたが、店で一番高い(1枚1,000円)のを買ってきてくれました。蒲鉾はどうでもよくて板が欲しかっただけでしたが、シコシコとした歯ごたえのある食感でした。

         

蒲鉾の板には、余分な水分を吸収することで蒲鉾の弾力性を一定に保ったり、腐敗を防ぐ働きがあるそうです。モミには匂いがほとんどなく、しかもネズミの害が少ないので食品には最適で、緑茶や紅茶の箱、松茸の箱、さらには魚の味噌漬けや粕漬けの化粧箱にも使われています。

いろいろ調べてみると、小田原だけじゃなく、蒲鉾の板には一般的にモミを使うようです。以前は国内産のスギやモミ、シナノキなどを使っていたようですが、供給が不安定で高価なため、現在はほとんどがアメリカ産のモミ(ホワイトファー)だそうです。な~んだ、それならわざわざ小田原の高い蒲鉾や妻のヒンシュクを買うこともなかったのに・・・。
ちなみに、この鈴廣というメーカーはメセナ活動として、蒲鉾の板に描いた絵の国際コンクールをやっています。審査員に漫画家の久里洋二や美術評論家の針生一郎が並ぶ本格的なもののようです。
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木枯らし紋次郎の楊枝

2006年07月13日 | 木と飲食
以前、「高級な楊枝はクロモジ」とご紹介しましたが、「楊枝」は楊(やなぎ)の枝と書きます。ヤナギの漢字には「柳」もありますが、柳はシダレヤナギの仲間、楊はハコヤナギの仲間を意味します。箱を作るのでこの名があります。

シダレヤナギは「銀座の柳」をはじめ街路樹によく使われているのでご存知でしょう。ハコヤナギは、ヨーロッパでは学名から「ポプラ」、日本では「ヤマナラシ」と呼ばれています。ヤマナラシはご存知なくても、ポプラ(セイヨウハコヤナギ)はどこかでご覧になっていると思います。

         
   (白い樹皮に小さな菱形の皮目があるのがヤマナラシの特徴)

ヤマナラシもポプラも、葉柄(葉と枝を繋ぐ軸)の断面が楕円形になっています。このため、かすかな風でも葉が左右にひらめき、ハラハラ、カラカラと音をたてます。だから「山鳴らし」。
ハコヤナギ類を英語でアスペンと言いますが、おしゃべりな女性のことを「アスペン・リーフ」と表現するそうです。日本でも欧米でも、うるさい樹と思われているんですね。

      
(他の樹の葉が揺れないような微風でも、ヤマナラシの葉だけはヒラヒラします。)

さて、楊枝を使う習慣は古代インドで始まり、その樹種もインドボダイジュでした。枝の先を噛み砕いてブラシのようにしてから、歯磨きとして使っていたようです。それが中国に伝わり、インドボダイジュの代わりにハコヤナギ類で作るようになったので「楊枝」という言葉が生れたのです。
枝という字からも分かるように昔の楊枝は今よりも大きく、9cmから30cmまでいろいろあったようです。そう言えば、「木枯らし紋次郎」も長い楊枝をくわえていました。あれも、ハコヤナギ(=ヤマナラシ)で作られていたんでしょうか。
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