父が帰ってきた。体調は良好なようで、いびきをかいて寝ている。ずれてしまった介護の歯車を感じてか、母が介護の重荷を語り始めた。一方通行の介護は精神を病んでいく。その虚ろな穴が拡がることは不可避なのだろうか。
母の胃ガンは初期のものだが、内視鏡手術のガイドラインには、収まりきれなかった。転移の可能性が少ない分、当事者・家族の気持ちは追い込まれてはいないが、父の介護と重なると、力技と密度の件で底無し沼のような実情にたじろぐ。父の危険な過信と認知障がいがもたらす転倒事故や徘徊未遂の傷が、一向に反省修正のループに乗らない異常さが、家族を追い込んでいる。それでも且つと踏み越える根拠を、健常時の父の横暴の記憶が奪っていく。だからこそ、父はサル山を守るために転倒し、私を時には殴打し、私たちの介護を主従逆転と、おしめ戦争を起こしていた。
その父が寝息を立てている傍で、ポータブルトイレの清掃と、当人を起こしての紙パンツの交換を行った。寝ぼけ眼で、やけを起こしたように、力任せでズボンを下げる父に、(父に)「死ぬまでのしかかるつもりなの」と声をかける母は、私の制止を聞かない。耳の遠くなった父は、予感で表情を読み取り、ひたすら防衛する。父の帰宅は、その戦争が再開されたということでもある。ひとのエゴを踏まえなければ、ひとの実在は語れないし、過ちを経なければ解決は無力だ。しかしそこに泥仕合を超える智の力がなければ、私たちはつながることが出来ない。
昨夜は珍しく夜間、親しい友人からの電話が飛び込んだ。お互いの抱える棘だらけの家庭の事情があるから、会話は不器用に途切れては、袋小路を引き返すように次の話題を語りつつ隙間の交感を行っていく。言葉はそういう情緒の海に浸っているから、響き合うことが出来る。その隙間の存在を片方が手綱を離したら、いや結果的につながっていた綱を放したら、舟が闇のうねりに沈むまで、舳先をぶつけ合う以外ないのだろうか。
そんな思いが、電話の会話の片隅に、先方との話とは無縁に、眼差しの闇を広げていた。
久々の声に、嬉しさと途方の無さが交錯している不器用なひとときを過ごした。私が拡げている夜間傾聴の風呂敷も、そんな不器用な指の隙間にこぼれおちる砂の感情が、きれい事ではなく追認できるものでありたいと思う。
今日は地域就労支援プロジェクトの会合である。レジュメのひとつ、準備していきたいと思いつつ、最後の「俺がやる」の提案に、始動の捺印を捺せないもどかしさを抱えて、まもなく久里浜少年院見学に出かける。免罪符のようにNotePCをバッグに詰め込んだ。帰り道、父の実家に立ち寄ることは、先方の介護予定とぶつかり出来なくなった。茅ヶ崎サポセンに行く前の間の楽屋裏アクロバット作業、さて可能だろうかと。
夜間傾聴:******君(親)
MTさん(仮名・ストライク)
(校正2回目済み)
母の胃ガンは初期のものだが、内視鏡手術のガイドラインには、収まりきれなかった。転移の可能性が少ない分、当事者・家族の気持ちは追い込まれてはいないが、父の介護と重なると、力技と密度の件で底無し沼のような実情にたじろぐ。父の危険な過信と認知障がいがもたらす転倒事故や徘徊未遂の傷が、一向に反省修正のループに乗らない異常さが、家族を追い込んでいる。それでも且つと踏み越える根拠を、健常時の父の横暴の記憶が奪っていく。だからこそ、父はサル山を守るために転倒し、私を時には殴打し、私たちの介護を主従逆転と、おしめ戦争を起こしていた。
その父が寝息を立てている傍で、ポータブルトイレの清掃と、当人を起こしての紙パンツの交換を行った。寝ぼけ眼で、やけを起こしたように、力任せでズボンを下げる父に、(父に)「死ぬまでのしかかるつもりなの」と声をかける母は、私の制止を聞かない。耳の遠くなった父は、予感で表情を読み取り、ひたすら防衛する。父の帰宅は、その戦争が再開されたということでもある。ひとのエゴを踏まえなければ、ひとの実在は語れないし、過ちを経なければ解決は無力だ。しかしそこに泥仕合を超える智の力がなければ、私たちはつながることが出来ない。
昨夜は珍しく夜間、親しい友人からの電話が飛び込んだ。お互いの抱える棘だらけの家庭の事情があるから、会話は不器用に途切れては、袋小路を引き返すように次の話題を語りつつ隙間の交感を行っていく。言葉はそういう情緒の海に浸っているから、響き合うことが出来る。その隙間の存在を片方が手綱を離したら、いや結果的につながっていた綱を放したら、舟が闇のうねりに沈むまで、舳先をぶつけ合う以外ないのだろうか。
そんな思いが、電話の会話の片隅に、先方との話とは無縁に、眼差しの闇を広げていた。
久々の声に、嬉しさと途方の無さが交錯している不器用なひとときを過ごした。私が拡げている夜間傾聴の風呂敷も、そんな不器用な指の隙間にこぼれおちる砂の感情が、きれい事ではなく追認できるものでありたいと思う。
今日は地域就労支援プロジェクトの会合である。レジュメのひとつ、準備していきたいと思いつつ、最後の「俺がやる」の提案に、始動の捺印を捺せないもどかしさを抱えて、まもなく久里浜少年院見学に出かける。免罪符のようにNotePCをバッグに詰め込んだ。帰り道、父の実家に立ち寄ることは、先方の介護予定とぶつかり出来なくなった。茅ヶ崎サポセンに行く前の間の楽屋裏アクロバット作業、さて可能だろうかと。
夜間傾聴:******君(親)
MTさん(仮名・ストライク)
(校正2回目済み)