天皇の戦争宝庫(井上亮著)

2018-06-18 00:00:12 | 歴史
先日、神宮外苑の絵画館で観た『振天府』という絵画から、皇居内にある振天府という木造建物の中にあるのが日清戦争での日本の戦利品の数々であることを知ったのだが、さらに振天府のようないわば戦利品記念館が合計5棟あること(北清事変、日露戦争、第一次世界大戦、日中戦争)、それらの戦利品は現在は建物内には存在しないことがわかった。

一方で、絵画そのものは、他の絵画が記録写真のように事実を写実的に描いてあるのに対し、この作品は、あたかもシャガール画のように一枚の中に部分的にさまざまなカットが描きこまれているということもわかった。



しかし、戦後73年にもなり、そのかつて存在した正体の証人もほとんどいなくなる。大部分の建物そのものは、現在も倉庫として存在しているが皇居の公開範囲が徐々に拡大している現在でも写真すらも撮影が認められていない。

ということであれこれと考えているうちに、2017年(つまり昨年)8月10日にちくま新書として発刊された『天皇の戦争宝庫』という書に辿り着いた。著者は井上亮氏といって日本経済新聞社のジャーナリストであり、以前、昭和天皇が靖国神社参拝を中止した理由について「富田メモ」を発見している。



といっても、彼が現在の宮内庁と関係がいいとか悪いとかということはないようで、本書を書く上で宮内庁の記録としての振天府はじめとする五つの御府の過去の内部写真などは公開されている(過去の内部写真は公開し、現在の外観の撮影は許可しないというのも変だが)。

ただ、ある意味、直接の証人はほとんど生存していない上、特に終戦間際はもはや記録も残せない時代であったようで、明治以降の資料もいくつかの矛盾を持ちながら、ある程度は著者の想像力による推論で補わざるを得ない状況と思われる。

そういう厳しい状況の中で、御府の正体に迫っていく著者の執念、つまり本書を書くまでの資料の捜索と整理はかなり伝わっている。

最初の振天府を作った時、いわゆる二つの流れがあった。一つは、軍からの要望で、戦利品(分捕り品と言っていた)を並べて国民を鼓舞しようという考え方。もう一つは明治天皇の意向から、戦死者の名簿と写真を捧げる場所にしようということで、結局は当初のこの二つの流れがずっと続いていくことになる。(注:二つの流れということを著者が書いているわけではなく、私の印象)

それと、このあたりで書いておくが、書名の「宝庫」ということについては、少なくとも著者は「お宝ザクザク」ということはまったく触れていない。軍旗とかそういうものを宝と考えれば別だが。本の営業上の理由だろうか。

しかし、文化財という観点で言うと2006年に明らかになった鴻臚井碑(渤海国の石碑)というものがある。日露戦争の戦利品として中国の遼東半島の旅順から持ち帰ったものである。現在は日本にある。当時、渤海国というのが沿海州というか高句麗というか満州というかそういう一帯を指していて、それが中国の一部だったか、別の国(朝貢国)だったのかという証拠になる碑だそうだ。中国の一部であれば、朝鮮は中国の一部だったということに近づき、別の国であれば朝鮮は独立国だったということにつながるらしい。

もっとも碑に書かれていた文字は記録されているので、どこにあっても構わないのだが、韓国は、日本が中国に渡すことに反対しているようだ。そもそも日露戦争の略奪品なら、一旦はロシア(ソ連)に返して、さらに中国に返すべきものだが、国家として中国から返還要求は起きていないそうだ。

この戦利品の返却だが、実際には武器については、戦後、全国の小学校などにも散らばっていたものを占領軍が回収して、鉄屑として溶かしたことになっているが、その他の品々は、返却がおこなわれたことになっているが、確たる証拠はない。また明治天皇の肝いりだった戦死者の名簿や写真についても行方不明になっているそうだ。もっとも第二次大戦の夥しい死者を記録したり写真を集めることは、パールハーバー以降はすぐに困難になっていたようだ。

なお、戦死者の範囲は、戦死と戦病死とわかれていて、戦死のみにする予定が、日清戦争では戦死者千六百余名に対し、戦病死者は一万五百余名と約十倍になり、さらに皇族の子息が病死したことから、どちらも戦死ということになったようだ。

なお日露戦争では六万二千五百余名が戦死、二万五千五百余名が戦病死。第二次大戦の戦没者は範囲によっては二百万人強から三百万人強とも言われるが百万人以上は餓死によると考えられている。

対米開戦前に、主に日中戦争で、毎年2万人が戦没していたそうで、既に戦略はうまくいっていなかったということだろう。

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