昨年から寡筆の小説家である絲山秋子著作を読んでいる。年一作弱なので、追いつくこともできる。もっとも読者が作家に追いついても褒めてくれる人はいないだろう。
今回は『離陸』。その前に読んだ『薄情』とともに彼女の中期の作。(中期というのは私が勝手に分類しただけで、故人じゃないのだから、「初期の後半」となるのかもしれない。
主人公は20代中盤の男性で国交省の役人。たぶんキャリアなのだろうが、全国各地のダム湖とか山の中の施設の管理などをしている。本省と地方を2年刻みで往復しているのだが、過去に付き合っていて、行方が分からなくなった舞台女優の思い出から逃れられない。
その女優から逃れられないのは彼だけではなく、フランスには元夫と男児が残され、中東にもいたことが確認されている。それぞれの関連は解らない。どこに行ったのか探し始めたのが、フランスの元夫の友人。わざわざ日本の山奥に主人公に会いに来る。
いくつかのピースを組み合わせるもさらに深みに嵌っていく。彼女の年令すらわからなくなっていく。前の世界大戦の時にすでに成人だったのか。
400ページもある本なのだが、3日で読み切ろうと思っていたが、4時間で読み切ってしまったのだが、ミステリーの様に中盤で謎を散りばめたのに、あまり解決しないまま、さらに関係者が何も語らないまま、次々に亡くなっていく。結構な大不幸小説だ。
著者の初期の小説と中期の小説の間の作品を読んでいけば、この不連続感が埋まるのかもしれないと思うが、ちょっと休む。