おまけのこ(畠中恵著 時代小説)

2019-09-25 00:00:07 | 書評
『しゃばけ』シリーズ第4巻は『おまけのこ』。短編5作である。

第三巻までと決定的に異なる点がある。

第三巻までは、長編にせよ短編にせよ、ほぼ各小説の中で人が死んでいること。人ではなく猫が死ぬのもあった。しゃばけに登場する妖(あやかし)は寿命が1000年以上(場合によっては3000年)なのだから比べようもないが、人の命ははかない。殺されなくても病気で早死にすることなど茶飯事の時代、推理小説で殺人事件が起きないというのは画期的ではないだろうか。というか、現代においても殺人事件が続いているのだから、殺人のないミステリって刺激が足りないのではないだろうか。

もしかしたら著者の実生活上、身辺に不幸があったのだろうか。“喪中につき、一年間は殺人は扱いません”とか。本短編集では、せいぜい殴られて一時的に意識不明になるレベルまでだ。



短編は、『こわい』、『畳紙(たとうがみ)』、『動く影』、『ありんすこく』、『おまけのこ』。

こわいは『孤者異』と書き、貧乏神の親戚のようなタイプだが、この怪にかかわると大不幸が起こってしまう。恐いという言葉の語源とも言われるらしい。

『畳紙』。厚化粧女に薄化粧を勧める話だ。素顔を見られるのが恐怖という気持ちで、化粧が塗り壁のようになった女性の心理的回復プロセス。

『動く影』。主人公の一太郎が幼少の頃に体験した事件である。妖怪退治で大活躍の図。

『ありんすこく』。「ありんす」とは吉原言葉である。吉原の禿が心臓病であるということで、なんとか足抜けさせ、治療させようというストーリーだが、そう簡単には事は進まない。深く読むと、吉原という矛盾だらけの存在を著者が、ややネガティブに考えているということだろうか。江戸の矛盾は解決されず。

『おまけのこ』この題名が何に由来するのかは知らない。この短編の主人公は、一太郎でもなければ、手代たちでもない。鳴家(やなり)と言われる小さなあやかしだ。必至の思いで、宝物を守る。川でおぼれかけたり、カラスの餌にされそうだったり、・・


なんとなく思うのだが一冊の本の中の5から6編の短編は、江戸を様々なアスペクトで切り出して読者を飽きさせないようにしているのだろうと感じてきた。次の5冊目を読んで、とりあえず「しゃばけ地獄」から抜け出せるかどうか。

本作中で、後で調べるべき単語として「胡椒飯」という料理が出てくる。病弱な主人公である一太郎のための特別メニューだ。

胡椒は確かアフリカ原産で、西洋人が腐りかけた肉を食べる時に腐臭に気が付かないような強烈な刺激臭を求めたことから重宝された。洋風カレーと同類だ。大航海時代が始まる一つの原因物質。白い米に胡椒の粒を入れて炊くのだろうか。むしろ麦飯の方が合うかもしれない。