日本の作家 名表現辞典(中村明著)

2019-09-02 00:00:51 | 書評
結構な量の一冊である。二段組で566ページに索引が30ページ。岩波書店の発行だ。

日本の名文の作家98名を代表作の一部を掲示したあと、その文章の鑑賞をするところから、多くの場合作家の人生を振り返ったり、作家に対する様々な評価を加えたりする。



ある意味、国語の教科書とその参考書のような感じもある。しかし国語の授業と本書とは差異がある。

国語の授業では、まず有名作家の作品の一部が題材になる。つまり作家が神様になる。そして国語教師は神の代弁者になって、「この段落で主人公が最も深く心配していることはなんだろう。おおた君」とか聞くわけだ。「もちろん、主人公が心配しているのは、この本の売り上げです。」とか正鵠を突いた答えを述べ、後で職員室で口げんかになるわけだ。

本書(辞典?)では、中村明氏が選んだ作家のそれぞれ数編の作品について、かなり深く多面的な分析を行うので、内容について、読者は「なるほど」「そうだったのか」「よくわかる」というようなことになる。セールスマンの必須「サ行ことば」である。「さすがです」「しりませんでした」「すばらしいです」「せいかいです」「そうでしたか」。

ところが、作家の人選というのが少し不思議な感じがある。

阿川弘之 芥川龍之介 阿部昭 網野菊 池澤夏樹 石川淳 伊藤整 井上ひさし 井上靖 井伏鱒二 岩本素白 内田百閒 宇野浩二 円地文子 遠藤周作 大岡昇平 大岡信 小川邦夫 小川洋子 尾崎一雄 小津安二郎 小沼丹 梶井基次郎 川上弘美 川端康成 上林暁 北杜夫 木山捷平 清岡卓之 串田孫一 国木田独歩 久保田万太郎 黒井千次 小池滋 幸田文 小島信夫 後藤明生 小林秀雄 小宮豊隆 小山清 坂口安吾 佐々木邦 サトウハチロウ 佐藤春夫 里見弴 沢村貞子 志賀直哉 島尾敏雄 島崎藤村 庄野潤三 高田保 滝井孝作 竹西寛子 太宰治 谷崎潤一郎 田宮虎彦 辻邦生 坪田譲治 寺田寅彦 徳田秋声 富岡多恵子 永井荷風 永井龍男 中勘助 中島敦 中谷宇吉郎 夏目漱石 樋口一葉 平林たい子 福永武彦 福原麟太郎 藤枝静男 古井由吉 堀辰雄 正宗白鳥 松本清張 丸谷才一 三浦哲郎 三木卓 三島由紀夫 宮本輝 向田邦子 武者小路実篤 村上春樹 室生犀星 森敦 森鷗外 森茉莉 森瑤子 安岡章太郎 柳田国男 山田詠美 山田風太郎 柳美里 横光利一 吉村昭 吉行淳之介 以上98名。

たとえば、川端康成が13ページ分なのは当然として、小沼丹23ページ、井伏鱒二21ページ、永井龍男20ページ。夏目漱石20ページに対し、村上春樹8ページ、芥川龍之介6ページ、三島由紀夫5ページ。



おそらく好き嫌いが大きいのかもしれない。そもそも98人の選というのも不思議な数なのだが、あとがきの中に、99人を収録しようとしたが1人の方の6編の作品からの引用について著作権継承者の方の許可が得られなかったので98人になったと書かれている。この本は2014年に出版されているので当時の著作権からして、1964年から2014年までに亡くなった作家の方のうち誰かが最終段階ではずれたと思われる。

さらに99人というのも不思議だ。普通100人ではないだろうか。思うに100人のうち、2014年に生きている作家のうち一人は自分で断ったのではないだろうか。

と仮説を立てて98人の名簿をみても「誰が抜けているか」というのは難しい。実際98人のうち74人の作家の作品は読んだことはあるので、抜けたと思われる二人の作品も読んだことがあるとは思うが、じっと名簿を見ているとノーベル賞作家の大江健三郎氏の名前がない。大江氏は健在なのだから100から99になった時のマイナス一名ではないだろうか。山田詠美は辞典に載っているが吉本ばななや村上龍も載っていない。といってもノーベル賞作家で文体もはっきりしている大江氏が落ちているのは辞退しか考えにくい。

もう一人の著作権者が反対した方は、わかりにくい。本人の妻や子孫が反対ということだろう。羅列すると、安倍公房、倉橋由美子、開高健あたりではないだろうか。
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