タイプライターの思い出

2019-09-05 00:00:49 | 市民A
今年6月に映画『ミザリー』のDVDを観たのだが、主人公の人気小説家(米国の話)が雪道運転中に凍結した道路で転落し、重症を負ったまま彼のストーカー的女性ファンに救助されたところまではいいのだが、彼女の自宅に監禁され、彼女好みの小説を書くように強要され、断ると殺されるというシチュエーションに追い込まれる。

そして与えられたのが、手動ながら重たそうな旧式のタイプライターで、「N」の文字が欠けていて空白になる。Nの文字が抜けた小説を書き終わった結果、用済みとなって殺されることになるのだが、歩けない小説家が彼女と戦う時に使った武器が、タイプライター。最終的に血みどろの戦いの末、彼女の頭部にタイプライターを炸裂させて生還した。

これを観て、思い出したのが数十年前に出張で行った中東某国のホテルのタイプライターのこと。今も昔もそちら方面の方はお土産が好きなのだが、当時も様々なランクのお土産を準備していったのだが、当然ながら予備のお土産もある。訪問先で昇格した方々があれば、急きょ「 Congratulation for your Promotion」で始まるレターを付けてお渡しする段になるのだが、当時はワープロのようなものは存在しなかったため、日本から持って行ったモデル文集を見ながら、ホテルのタイプライターで一仕事しなければならない。

ということで、翌日の面会に備えてホテルで残業するのだが、部屋に届けられた機械はあまりにも大きい電動式なのだ。しかも見た目がボロボロ。最新ホテルではあったのだが、シャワーの赤栓からも青栓からも熱湯しか出ないというトラブルの翌日であり、文句をつける気力もなく作業を始めたのだが、重大な故障があったのだ。「l(エル)」という字を打つと、自動的にポンポンと二つ進んでしまうわけだ。「letter」と打つと「l etter」となってしまう。「l」の次に一つ戻してから続けなければならないのだが、つい忘れてしまう。一字ボツで一枚書き直しだ。

冷静に考えれば、昇進おめでとう、の手紙をじっくり読む人間なんか古今東西いるわけはないのだからスペルにしてもどうでもいいし、数行を手で書いたっていいはず。どうせ破いて捨てるはず。

結局、2時間ほど格闘して終わった後がいけなかった、あまりの巨大サイズで邪魔なので、ドアから外の廊下に運び出したのだが、うっかり鍵をポケットにいれなかったため、ボーイを探してきて「I’m out, Key is in」という便利な言葉を使うことになり、またもチップ支出がかさむことになった。


ところで、なぜこんなことを書いているかというと先週、突然、左手小指、薬指あたりの腱鞘炎になって、キーボードを片手五本指打法で叩くことになった。ミスタッチが多いわけだ。そもそも誰も教えてくれなかったタイピングの練習法だが、自己流の練習法は、タイプライターに紙をセットしてから、部屋の照明を消すというものだった。幸い、窓には雨戸はないものの、夜になれば部屋の前はかなり大きな暗黒の空間が広がっていたので、電灯を消せば十分だったわけだ。

なぜ、大きな暗黒の空間が窓の外に広がっていたかというと、墓地の裏だったからだ。
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