一気に動いた「波」(ただし書評誌)

2013-02-27 00:00:48 | 書評
1ヶ月ほど前に「現代文学は閉塞あるいは回顧に向かうのだろうか」の中で、新潮社の書評誌「波」の連載小説群が、全部まとめて、閉塞あるいは回顧(つまり、堂々巡り感ということ)に陥っているのではないか、ということを書いたのを編集者が読んだのではないのだろうが、同じような気持ちになっていたのではないだろうか。

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各連載小説のほとんどが、ストーリーの大転換をはじめた。

作家に圧力をかけたのだろう。

「このままでは、連載中止および出版中止です。小説の中では、多少反社会的でも構わないから、もっと殺人とか不倫とか核兵器とか登場させて、派手な展開にしてくださいよ。」


斉藤明美「高峰秀子の言葉19」・・やっと高峰の男性観の話になる。

鹿島田真希「少女のための秘密の聖書5」・・かなり不安を感じていた。宗教書を読んでいるような感じだったのだが、ついに新たな少年重要人物が登場し、ナイフを振り回す。あまりの方向転換に小説が完成するのかやや不安。

吉田篤弘「ソラシド7」・・過去のミュージシャンの思い出話と思っていたが、ミステリ風の過去探しに。今後、大いに期待。

桜木紫乃「モノトーン12」・・うっすらと不倫あるいは禁断の少女趣味が漂うホームドラマだったのだが、主人公の一人が関係の解消を申し出て、やっと変化の兆しを感じることになる。

梨木香歩「冬虫夏草9」・・田舎の村の人間模様を描いていて、なかなか小説の中に入り切れないのだが、徐々に深みにはまりつつあるように感じるのだが、以前としてよくわからない。

三山喬「トスキナの唄12」・・日本映画黎明期の映画人たちの人生を勝ち組、負け組の両方の立場でストーリーはゆっくりと進んでいたのだが、ぐんぐんと話は展開していく。というか次号で完結ということらしい。強制終了なのだろうか。予定の回数なのだろうか。

高橋秀実「とかなんとか言語学14」・・この連載は、なかなか面白い。要するに1話ずつ完結するため、だらだらにならない。

江弘毅「有次と庖丁3」・・まだ三回目。以前として序の部分なのだろうが、親切なことに次回からメインストーリーが始まることが予言されている。

津村節子「時のなごり17」・・故吉村昭氏の妻でもある作者の思い出が書き繋がれている。吉村昭のファンとしては、彼の著作に関する秘話が知れるのは嬉しいような、そうでもないような微妙なスタンスで読んでいたのだが、ついに吉村昭氏の話題よりも作者自身のエッセイというような状態になったようだ。

ところで、突然面白くなった「ソラシド」だが、登場人物の位置関係をもう一度確認したいと思っているのだが、あいにく過去の号は、既に資源化されてしまっているのである。