「駅弁革命」(小林祐一・小林裕子著)

2010-09-06 00:00:31 | 書評
副題が、「東京の駅弁」にかけた料理人・横山勉の挑戦。



著者が小林祐一・小林裕子となっていて、両者とも小林事務所ということだそうだが、二人の関係が書かれていないのでよくわからないが、関係者なのだろうか。名前が似過ぎていて、兄妹ではなさそうなので夫婦だろうか。読んでいて、文体の差は感じられないので、本当に二人で分担して書いたのか、よくわからない。交通新聞社という小さな出版社が新書として刊行している。

実は、この話は、かなり面白そうなテーマなのである。料理人横山勉は、山形県出身。板前道目指し、関西の割烹に潜りこむところから、彼の仕事人生が始まるのだが、運命の悪戯で、日本食堂に勤めることになる。そして、高級料亭の味を、日本食堂という当時最大の駅弁会社で生かすことになる。

ところが、駅弁と言うのは、いわゆる衰退産業で、毎年売上を落としていて、いつか崩壊のXデイが来ると考えられていた。新幹線は目的地にすぐに着くし、列車の窓も開かない。コンビニ弁当は安いが、それなりの標準的な味である。

その駅弁受難時代を打破すべく、地方のどこにでもあるご当地駅弁を東京で作ろうと思ったところから、苦難の道が始まる。

まあ、そういう展開なのだが、この設定のやっかいなのは、「東京の駅弁」「高級駅弁に対する老舗の抵抗」「大量生産か少量生産か」というような厄介な問題を、社会科学的に解説しなければ、前に進まないということ。なんとなくプロジェクトX風になる。

一方、料理人・横山勉の考え方や生き方も書かなければならないが、結局、サラリーマンであるがための限界がある。



しかも、題名の問題もあり、「高級駅弁の宣伝」も必要だ。しかし、高級駅弁(たとえば3000円とか5000円)には、その中に東京の老舗店のこだわりが詰まっていて、卵焼きや牛肉のすき焼きになると個別の料理の宣伝になってしまう。

さらに懐石弁当。実際に売れているとはいえ、東京駅だから高額商品が売れるのか、あるいは懐石が素晴らしいのか、本当はよくわからない。

ということで、本書自体が、あれこれと詰め込んだ駅弁みたいな内容になっている。あるいは寄せ鍋。


まあ、それではと、東京駅に行ってみたわけだ。すると、駅弁売り場が巨大化していて、全国の有名駅弁を売っているわけだ。少し驚きである。飛行機で早朝便で輸送するのだろう。人間が新幹線に乗るのに、駅弁が飛行機で飛んでくる。



『駅弁屋 旨囲門』と表示されている。ひらがなで「うまいもん」でもよかったのではないだろうか。高額駅弁も並べられているのだが、あいにく、私は東京駅から長距離バスに乗るので、二段重ねというわけにもいかないし、お茶だけ買って我慢する。東京駅は巨大バスターミナルになっているのだから、身動きが制限されるバス客用の「バスベン」も開発してもらいたいものだ。

東京駅構内の別の場所に、売上ベスト5が発表されていたが、1位は牛肉弁当1000円。2位は季節の吹寄せ弁当1300円。3位は30品目バランス弁当850円。4位は深川めし850円。5位は鳥めし弁当850円、ということだそうだ。お茶と合わせて1000円と考えている人が多いような気がする。弁当屋とお茶屋を分離させると、弁当屋で1000円使う人が多いのではないだろうか。

新幹線の切符を見せると1割引きとかあると嬉しいのだが。