ブエノスアイレス午前零時(藤沢周著)

2009-11-04 00:00:24 | 書評
reiji藤沢周の作品をだいぶ読んでいたのだが、ちょっと疲れたので、しばらく彼とはお別れにする。仮シメには芥川賞受賞作品『ブエノスアイレス午前零時』を選ぶ。もう一作。『屋上』がパッケージになっている。

本は薄いのだが、結構、重い感じである。主人公が、全然スマートじゃない。温泉旅館に勤めていて毎日毎日、温泉卵をゆでる仕事をしていて、体までイオウ臭くなる。

そこに現れたのが、視力の不自由な謎の老女。なんだかわからない内に、ダンスホールで踊ることになる。

『屋上』の方も、都会のビルの屋上にささやかに存在する、ミニ動物園で働く主人公が、いつの間に屋上に放たれたすべての動物に囲まれて終わる。

最初、読んだ時は、「あまり面白くない」という気持ちになったのだが、あとでジクっとわかってきたのだが、この作家、複雑に考えるわけだ。二元論の組み立てで小説書いている作家が多い中、意味のよくわからないシチュエーションを次々に組み立てて、最後にさらに大きな謎の空間を書く。


文庫本の解説を書いた野谷文昭氏のコトバによれば、『この短編はそれこそボルヘスの世界に歩み寄る。』と大讃辞を与えるのだが、この作品以降、作家がボルヘスの域に近づいているのか、そうではないのか、よくわからない。