アンプレかロストか?尾崎将司氏のこと

2005-11-10 23:10:36 | MBAの意見
d8495437.jpg日頃、愛読のホームページがある。帝国データバンク東京商工リサーチである。どこを見るかというと、どちらも、左下の方にある「倒産情報」だ。他社の倒産事例を知ることは、自社の経営に重要な教訓を与えるから、というのは表向きの理由で、実際は「他人の不幸は蜜の味」ということ。つまり焦げ付き金額が多ければ多いほど、レポートとしては面白い。激辛のコメントが書かれている。無論、楽しいのは、自らが債権者や株主になっていない場合だ。

ところで、「倒産」というのは一般的用語として使われていて、一挙に全部の資産を清算してしまう「破産」と会社更生法による「新経営者による再建」と民事再生法による「旧経営者による再建」という3パターンを総称している。どちらのHPも負債額30億円以上を大型倒産として解説している。

そして、それらのページへの前触れもなく、突然、「ジャンボ尾崎破綻。民事再生法へ」という報道があった。不勉強ながら民事再生法が個人にも適用されるというのも意外だったが、読み直してみるとその手があった。確かに、「自己破産」も一つの方法だが、それでは完全に首が回らなくなり、また債権者はほとんど回収できないだろうから。とりあえずはよりましな方法かもしれない。個人の場合、経営者を変えるということはできないから、自分で稼ぎ続けるしかない。倒産情報に登場しなかったのは額が30億円未満だったことや、法人ではなく個人であったからかもしれない。

しかし、この民事再生法による再建というのは、再生計画にのっとり、ある程度圧縮された負債を返済していくことが義務付けられる。この点、プロゴルファーというのはやっかいなもので、期待収益というのを計画化しようにも思うようにいかない。2006年の計画は優勝3回、ベストテン10回とか予定として紙に書くのは簡単だが、うまく行かないと賞金は1円にもならない。そして、結局は破産して何も残らない。ところが、今の尾崎は既に家も失っているようだし、既に実質的には破産同様ということらしい。世間体かな?と疑ってみる。

彼の借金の原因はあまりはっきりしていないが、AERAとか読むと、夫人の投機とか出資会社の破綻とか・・・バブル以降、無理に無理を重ねて転がしてきて、ついに御用となったというところではないだろうか。では、いったい誰が債権者かというと、人数が8人ということだけで、よくわからない。債務(負債)は16億円ということだが、少し少ないような気もする。

ところで、ここからは推理の世界である。

先週末、国内では三つのトーナメントが行われていた。男子ツアー、女子ツアー、シニアツアーだ。男子は矢野選手初優勝、女子はソレンスタム。そしてシニアは中島常幸。優勝賞金は、矢野2000万円、ソレンスタム15万ドル(1770万円)、そして中島は1000万円である。尾崎はいくらだったかよくわからないが、備忘価額ということだろう。もう、普通ツアーでは無理なのだろう。確かにゴルフは、他のスポーツに比べて、体力以外の要素が大きいため、高年齢でも対応可能なのだろうが、それでも視力とか反射能力とかはどうしようもなく衰えていくはずだ。だいたい、アメリカでも人気者アーノルド・パーマーのためにシニアツアーが存在していると言われたぐらいだ。

それでは、なぜ尾崎はシニアに移籍しないのかというと、主に二つの理由が考えられる。一つは、賞金が少ないということだ。少し調べると、男子ツアーと女子ツアーの賞金はすぐわかるのだが、シニアツアーのことはよくわからない、あまりに安くて恥ずかしいのだろう。つまりスポンサーがつかない。今年度の男子ツアーは全28戦で全賞金総額は31億6000万円。1試合あたり1億1286万円だ。実は女子ツアーは試合数は男子より多い。もちろんスター選手がいるからだ。全33試合。総額22億1000万円で1試合あたりは6697万円でこちらは少ない。昨年2004年の賞金ランキングでは男女を通して1位は不動さんの1億4277万円、2位が宮里さんの1億2297万円。3位が男子プロで片山選手の1億1951万円、4位が谷口選手1億0177万円ということになる。一方、今年のシニアの試合数は僅か8試合。賞金は不明。これではシニアは率が悪い。

そして、尾崎がシニアに行かないもう一つの理由は、単に「みえっぱり」ということなのだろう。特に日本人の年配者はゴルファーにかかわらず地味だ。ベースカラーがグレーになったり紺になったりと・・ちょっと気分が耐えられないのだろう。

ところが、来年のことを考えると、この女子ツアーがヒドイことになりそうなわけだ。宮里藍をはじめ、有力選手の海外逃亡が確実な状況なわけだ。男子と違い、岡本や小林のような先駆者もいる。そして彼女たちは、アメリカで勝てなくなるまで日本には帰ってこなかった。日本ではゴルフトーナメントは激しくスポンサー頼りだ。何しろ、賞品をはじめゴルフ場の借り切り費用に始まり、テレビ放映権はCM提供ではなく、番組の丸ごと購入という大散財なのだ。よほどの効果が出ないとF1レースみたいなことになる。来年も33回も大会が開けるかどうかよくわからないのだ。そしてワールドカップイヤーだ。

となれば、スポンサーから言えば、宣伝効果のない女子ツアーを減らして、尾崎の出場するシニアツアーの方が、「まだましだ」と思うのではないだろうか。そして、「再生法適用」となれば、尾崎の悩みである「過去の栄光の重み」など気にすることもなくなる。そして、今でも可能かどうかわからないが、裏から手を回して、アメリカのシニアツアーに行くこともできる(ただし、借金取りから逃れようと亡命することはできない)。

上に書いたが、アメリカはパーマーの人気にあやかるために、シニアツアーが発展し、賞金も多い。2004年の賞金額(1ドル=118円換算)は、シニアツアーのスタドラーは2億7000万円。青木だって3170万円。(もちろん男子ツアーのビジェイ・シンは12億9000万円、女子ツアーのソレンスタムは3億円だが)。そして、アメリカツアーに行くと副産物がある。ゴルフクラブだ。尾崎は「負の連鎖投資」の中で、大手メーカーではなく独立系メーカーのクラブを使い、さらに損を重ねていったわけだが、米国ツアーに行くと、どこでもサービスを受けられる汎用メーカーの製品にしなければならない。そうなれば見栄をすてて、年相応に易しいクラブが使える。合理的理由(いいわけ)が見つかるのだろう。さらに、運がいいとスポンサー料が手に入るかもしれない。

ただし、時々日本で見つかっていた「小さなルール違反」は米国では通じないということを忘れてはだめだ。もし、発覚すれば、彼の人生は「打ち直し」ではなく、「競技失格」ということになってしまうだろうから。