「生の芸術 アール・ブリュット」展

2005-11-24 21:53:08 | 美術館・博物館・工芸品
841f5d23.jpg10月27日の「Another Side of Killer Street」の中で、キラー通り沿いのワタリウム美術館に触れ、過去に行われた美術展の中で、2002年末-2003年初頭の「ヘンリー・ダーガー展」の迫力に触れたところ、弊ブログ御愛読者のvagabond67様より、「ダーガー作も出展している展覧会が、銀座の”ハウス オブ シセイドウ”で開かれているので、ちょっと代わりに見てきておくれ」と指示をいただいた。

ギンザ?!、シセイドウ?!・・これは大変・・と、めったに着ないダークスーツにBVLGARIのネクタイなど締め、さて包み金はどれくらい必要なものか。あとでvagabond氏に付け替えねば・・どうやって?・・、と方向違いの勘違いをする。

実は、勤め先から近い。早足で10分。時々歩くナイトクラブ街を抜け、目的の建物、HOUSE OF SHISEIDOへ着く。向かいはルイ・ヴィトン。ガラス張りの建物で入口がわからないのだが、それらしきあたりへ進むと、巨大なガラス面全体が横に動いた。こんな大きな自動ドアを見たことがない。花崗岩張りの床をコツコツと歩くと、自然に展示スペースへ進む。不思議なことに、入場券売り場の自販機もなければ、ご祝儀袋を渡す受付もいないし、赤ワインの差し入れも不要だ。要するに、広告宣伝費か販売促進費の一環なのだろう。突然にvagabondさんが天使のように思えてくる。

841f5d23.jpgさて、アート・ブリュットというのは美術史上、何派に属するの?と考えるのは実は極めて危うい。中心的な作家群に共通するのは、「精神疾患の表現者」ということなのだが、それは画家の分類であって、画法の分類ではないわけだ。乏しい知識から、(はっきり確定されていないながら)3分類に分けて考えたい。

まず、美術史をダーウィニズム的に考えるなら、シュール・リアリズムの端の方を引っ張ってみるといいかもしれない。シュールの中の一派として、非現実、妄想、幻視性といった題材を多く描いた画家群がいる。そのずっと延長の方にあたるというのだが、しかしダリはちょっと変人かもしれないが、常人であり知能指数も高そう。まあ、そのあたりにつながるというのが無理な解釈の一つ。

次に、精神疾患症患者の絵画を専門に集めるコレクターが増えてきたわけ。ちょうど1900年頃からの動きで、フランス・スイス・ドイツと欧州各地にその動きが拡がる。そして、その後、コレクター同士の暗闘が始まり、第二次大戦後、アンドレ・ブルドン、ジャン・デゥビュッフェを中心に、病気という範疇から離脱し、芸術としての「アール・ブリュット協会」が設立。しかし、数年で空中分解する。

その後、またしても混迷が続いているのだが、ある意味で、「いわゆる画壇のような権威から離れた」ところの、評価を与えられていないグラスルーツ的な作品群というジャンルで考えようという動きがあったのが、アメリカである。アメリカ関係のアール・ブリュットコレクションは、こういう考え方に近い。

ヘンリー・ダーガー(1892-1973)は、何しろ生前には何一つ作品は公開されていない。4歳で母と死別。8歳で孤児院から知的障害児の施設に送られるが、脱出。シカゴの病院で清掃員として働きながら、アパートの自室で密かに小説を綴り始める。7人の少女「ヴィヴィアンガールズ」が非現実の世界で、悪の象徴との戦いを続ける15,000ページの物語と数百枚の挿絵が残され、死後、アパートの大家によって発見される。多くの作品には、男性器の付いた少女が描かれ、見る側を悩ませる。さらに、多くの作品は紙の裏側に、別の作品が描かれ、展示する美術館を悩ませる。結局ガラスではさんで、通路に配置し、裏からも見えるように展示するわけだ。残念ながら、今回は1作品だけだったのは、今回の展覧会の企画がフランスのabcd協会の力によるもので、ダーガーの主要作品はアメリカにある。

841f5d23.jpgつまり、「起源としてのシュール以降」が1分類。「精神疾患症患者の美術コレクション」という主にフランスでのジャンルが1分類。「オーソリティから乖離した場所でvividに輝くコレクション」という主にアメリカでのジャンルが1分類ということなのかもしれない。そういう意味で、「art brut」という熟語を「アール・ブリュット」と、フランス語・米語のチャンポンで読むのもなんとなくわかるような気がする。

気になった作品は、
ダーガーの「ジェニー・リッチーにて」(本物は、絵巻物のように横長で、紙の裏にも別の作品が描かれる)。
アドルフ・ヴェルフリ(スイス)の「クリストファー・コロンブス」。
ビル・トレイラー(米)の「無題」。無題ではかわいそうなので、おおたが勝手にタイトルをつけると、「DOG>CAT>BIRD>HUMAN-BEING」とか・・

この展覧会は11月27日までだが、次は12月7日から06年1月29日までで、"石内都の写真と共に"「永遠なる薔薇」。何の偶然か、少し前に東京竹橋の近代美術館で、彼女のデビュー当時の作品展を見た。廃娼街を題材としたモノクロ中心の作品。そして、彼女のトークビデオ。パワフルな語りだが、語る言葉の意味がよくわからなかった。

芸術かドキュメンタリーか。これも見逃せない。

そして、超巨大な自動ドアも、見逃せない。