原油価格が上がっても・・

2005-02-26 19:55:47 | MBAの意見
5ca3788f.jpg原油価格は昨年末高騰したあと、少し下落したが、今週はまた高値圏だ。WTI(ニューヨークの原油指標)で45ドル/バレルから50ドルの間から下がりそうもない。また重質の中東原油指標であるドバイ原油も40ドルを超えた。それらの動きにはさまざまな要素があるのだろうが、ちょっとミクロレベルのガソリン価格の話をしてみたい。以前、関わっていたことがあるし・・・。

2月末の店頭価格は、ピークであった12月上旬に対して5円/リッターくらい下落しているようだ(石油情報センターによる)。この5円/リッターというのは、原油価格では7.5ドル/バレル位に相当し、原油はそれほど下がっていないことから、石油会社のマージンが圧縮されてきたことがわかる。ただし、3月は値上がりしそうな雰囲気も漂うので、今週末は満タンにした方がいいかもしれない(自己責任だが)。

このガソリンの値段が不安定な理由なのだが、「価格弾力性」という理論を持ち出すとわかりやすい。この価格弾力性というのは、たとえば価格が1%値上がり(あるいは値下がり)した時に、ユーザーの消費量が変化する率を示す単位である。普通は1%値上がりすると1%需要が減るというくらいで、これを弾力性1という。300円の牛丼を330円に値上げして売上数が1割減ると弾力性1であり、売上高はほぼ変わらない。ところが、ガソリンの場合はかなり違うわけだ。実例とか石油連盟のアンケートとかで判っているのだが、ガソリンスタンド店頭での弾力性は、ほぼ「10」もある。ガソリンの値段はほぼ100円くらいなので、1円=1%として話をすると、110円のガソリンを108円に2円下げると、客数が2割増え、112円に値上げすると2割減る。当然ながら、値下をした方が売上高が増えることになる。直接的には、これが値崩れし易い原理なのである。

この背景となるのは、ガソリンという工業規格品がどこで買っても同じという無差別化性が一つの要因である。もう一つはガソリンスタンドの飽和状況がある。元々全国で60,000軒ほどあったものが50,000軒に近づいているが、セルフ化による大型スタンドの出現により40,000軒程度まで縮小するものと考えられるが、それでも今と同じような飽和感だろう。(これも石油連盟のアンケートによると約1/2のドライバーがセルフスタンド派で残り1/2がフルサービス派とのことである。さらにセルフスタンドの販売量はフルサービスの約3倍程度とのことであり、結局60,000軒が40,000軒になると均衡するはずだ。さらにもっと先には少子化の影響が待っているが、それはどの業種も同じだ。)

しかし、ミクロ段階では、弾力性がきわめて高いのだが、マクロ的に言うと価格と数量はまったく無関係である。いくら高くなっても、逆にいくら安くなっても需要の変化を感じることはできない(米国では、あまりに無駄遣いをしているので、ガソリン価格上昇は、買物の回数を減らしたり、ガソリン以外の低所得者層の需要を圧迫するというようなことになっている)。日本では、あまり無駄にクルマを動かす人はいないということを示しているわけだ。この面からいうと、環境税を導入することで、何かが変わるとか思わない方がいいのかもしれない。

一方、ユーザー側の弾力性理論はいいのだが、スタンド運営業者のミクロ理論はどうなるかと言うと、売上高イコール利益ではなく、売上げの約10%、つまり10円/リッター程度がマージンなのである(牛丼店の粗利は60%。定価の決まっている書店でも15%くらいだからスタンド事業は荒廃している)。したがって価格が2円下がって売上が20%伸びても、利益が10円から8円に20%減ってしまい、何をやっているのかわからなくなる。というのはガソリンだけの話であって、実はガソリンだけでは収支が完結しないのが今のスタンド経営なのであり、洗車を中心とした、その他の収益が利益の源泉になっている。そう考えると、問題は「来店客数」ということになるわけだ。となれば基本戦略は「値下」になりがちになる。

古くから、スタンドの3原則というのがあって、「立地、ハード、価格」というわけだ。さらに追加の3原則として「サービス、営業時間、販促活動」というのがあるのだが、実はこの6種類の要素の中で、今、「直ちに実行」できるものは「値下げ」だけなのである。

ところで日本では円/リッターというのが、価格の単位であるが、米国ではセント/ガロンという単位で販売されている。このガロンというのは3.8リッター位である。こういう大雑把な単位を使うことからして、米国での省エネは難しいと思える。