ピアノは唸り、指揮者は暴れ、準公務員は・・

2004-12-07 14:54:52 | 音楽(クラシック音楽他)
1c4445cf.jpg渋谷のNHKホール3階席の後方は、自由席だ。1500円と相当安い。ホールの設計上は問題があると思う。二階席の上に無理に作った感じで、天井桟敷風だ。紅白歌合戦の時だけ使うつもりだったのかも知れないが、オペラグラスを持ったクラシックファンが集まってしまった。ここに座る人たちの多くは、8,000円の席に1回座るより、この席に5回座る方が好きな人たちだ。柔らかい空気がある。当日券で仲間に入れてもらう。

12月3日のN響のプログラムはシャルル・デュトワ指揮で、リムスキー・コルサコフ「ロシアの復活祭」、ストラヴィンスキー「交響曲ハ調」、そしてチャイコフスキー「ピアノ協奏曲」は上原彩子(ピアノ)だ。

しかし、すごいものだというのは、最近きわめて評判の悪いNHKが、デュトワとアシュケナージという巨匠にタクトを委ねていることだ。団員は準公務員だというのに大丈夫だろうか。そして上原彩子は2002年に22歳でチャイコフスキーコンクールで女性初の優勝。世界進出中だ。特級の酒を特級のとっくりで燗をつけて、さて杯はN響で大丈夫かな?

前半の2曲は、景気付けのような感じで、デュトアは快調に飛ばす。CDで見る写真より年がいっている。遠目だとカルロス・ゴーンそっくり。しかし、ストラヴィンスキーはいつどこで何を聴いてもよくわからない。「火の鳥」は革命的といわれるのだが、もっと前衛的なシェーンベルクの方は快感があるのだが、いつまでたっても「火の鳥」は苦手だ。きっとストラヴィンスキーは左脳派なのだろう。理性が勝ちすぎているのだろう。

そして休憩時間の後、すべての観客のお目当ての上原彩子が登場する。
しかし、考えれば、演目のチャイコフスキーのピアノ協奏曲は、珈琲のCMはじめ世界中で演奏されているもっとも有名なピアノ協奏曲であるだろう。観客は誰でも何回も聴いているはずだ。すごい自信なのだろう。

そして、彼女は第一楽章を、きわめて攻撃的に弾く。そしてテンポが速い。ちょっと私好みの弾き方ではないが、鋭く、かつ挑戦的だ。これが、24歳で世界の頂点で戦う彼女のスタイルなのだろう。私も彼女のピアノに身を任すことにする。そして、彼女が引っ張るのを、デュトアがフォローして団員を引き擦り回す。対決的だ。

第二楽章は、あくまでも、協調的に流れていく。心のゆとりの中で、10年後、20年後の彼女を聴きたくなる。マルタ・アルゲリッチのような「押し」で行くのだろうか。それとも技巧に向うのだろうか。決めるのは本人だ。走れるところまでは今のスタイルでいくのだろう。

第三楽章では、一転して、オーケストラに華を持たせる。うまいものだ。ピアノは唸りに変わり、デュトワは踊りだすし、オーケストラは自信を回復する。そしてフィナーレ。完璧に終わる。他のチャイコフスキーは聞きたくなくなる。

3階席には時々「ブラボー男」がいるのだが、きょうも随分いる。最近、あちこちの会場で大問題になっている声楽家崩れの「ブーイング男」はここにはいなかった。

コンサートを振り返れば、上原彩子とデュトワを懸命にフォローしたN響も、「やればできるじゃないか」ということになる。海老沢氏の後任にはカルロス・ゴーンがうってつけなのだろう。外国人社長にコミットメント方式で追いまわされれば、NHK職員も「いい仕事」できるだろう。

会場を後にして、公園通りを渋谷駅へ向う。歩き慣れた渋谷の町は、心を落ち着かせる。アインシュタインは、「死とはモーツアルトが聴けなくなること」といったが、私にとって死とは、「渋谷を歩けなくなること」と言ったら言い過ぎかな。
しかし、12月のイルミネーションにもかかわらず、全然寒くない。シンガポールの夕涼みのような気温だ。いったい、この気候は誰のせいだって。