樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ホトトギスへの疑問

2006年06月20日 | 木と鳥・動物
『夏は来ぬ』という歌があります。
卯の花の匂う垣根に ホトトギス早も来鳴きて 忍び音もらす 夏は来ぬ~。

      
      (卯の花はウツギのこと。今ごろ、白い花をさかせます)

バードウォッチャーなら、この歌には疑問が湧くはずです。
まず、垣根のあるような住宅地にホトトギスが来るわけがない。
それに、卯の花は2メートルくらいの低木ですが、普通ならそんなやわい木にホトトギスは止まりません。

この疑問が長いこと私の中でくすぶっていましたが、先日ようやく解決しました。
まず、卯の花の垣根は住宅地ではなく、田畑の境界として作ったものらしい。そう言えば、この歌の2番には田植えの様子が歌われています。田園ならホトトギスが来てもおかしくない。

「低木になぜ?」への答は全くの私見です。ホトトギスやカッコーは託卵(たくらん)といって、ウグイスなど他の小鳥の巣に卵を産みつけて育てさせます。
この歌のホトトギスは、卯の花の藪の中にあるウグイスの巣に託卵しようとして、垣根のような低木に止まった、というのが私の解釈です。

      
      (栃の森に向う山道では卯の花=ウツギが満開でした)

卯の花にはほとんど匂いがないのに「匂う」と歌われているのは何故?という疑問もあったのですが、「匂う」には「色が美しく映える」という意味もあると知って納得しました。

疑問はもう一つあります。
「忍び音」は初鳴きのことらしいのですが、ホトトギスの場合は遅くても5月中旬。一方、卯の花が咲き匂うのは6月中旬です。この時期のズレが解決できません。

卯の花とホトトギスは昔からセットになっていて、万葉集にも歌われていますし、清少納言も「卯の花にはホトトギスが隠れているようで、いとをかし・・・」みたいなことを書いています。
『夏は来ぬ』の作詞家である佐佐木信綱は、歌人であると同時に万葉学者でもあります。古典の素養があったので、リアルな情景ではなくイメージとしての情景を詩にしたのでしょう。だから、ホトトギスの初鳴きと卯の花を一緒に歌ったのです。

ちなみに、この歌の4番にはクイナ(鳥)とセンダン(樹)がセットで登場します。バード&ツリーウォッチャーの私には大変興味深い歌です。
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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (guitarbird)
2006-06-20 21:56:46
こんばんわ、guitarbirdです



考えたこともなかったですね・・・

勉強になりました、ありがとうございます。

ホトトギスは道南に行けばいるので、

ブナもあるし、ちょっと出かけてみようかな、

と毎年思うのですが・・・

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場所によっては (scops)
2006-06-20 22:40:45
5月に咲くウツギもあるのかもしれませんね。いろんなサイトを見てみると、「開花時期5月」というところもありますね。



でも、fagus06さんのおっしゃるように、リアルな情景ではなくイメージとしての情景を詩にしたのでしょうね。



それとも、万葉の頃は「卯の花」は別の花を指していたのかも・・・

いろいろと想像しているだけで楽しいものです。
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ホトトギスは (fagus06)
2006-06-21 08:34:14
5月10日頃から私の家でも声が聞こえていました。毎日ではないですが、先日も朝、前の山から大きな声で「特許許可局・・・」と聞こえてきました。

guitarbirdさん、是非、道南のブナを取材がてらホトトギスを見に行ってください。

北海道では卯の花はいつごろ咲きますか?
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地域によって (fagus06)
2006-06-21 08:42:30
卯の花の開花時期が違うのでしょう。それも気になって、佐佐木信綱の出身地を調べたら、三重県鈴鹿市でした。

多少は早いかも知れませんが、ほぼ関西圏と同じでしょう。

卯の花が別の花を意味していた可能性も確かにあります。

でも、イメージとして初夏の田園の風物詩を集めて詩にしたのだと思います。

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こちらでは今 (woodyowaku)
2006-06-21 19:41:01
 卯の花がこちらでは今ちょうど咲き始めています、それと昔はこの地方では6月頃に田植えをしていたそうです。

 春先咲くウツギとしてはミツバウツギ科のミツバウツギがあります、結構ウツギに似ていますよね、全然違うといわれるかもしれませんが...。
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旧暦の卯月(四月)に (fagus06)
2006-06-22 10:22:54
咲くから「卯の花」と言うわけですから、今の五月ですよね。

私が撮影した花は山奥なので、岩手県と同じように1ヶ月くらい遅いのかも知れません。

ということは、昔の文化の中心であった関西圏を基準にすれば、ホトトギスの時期と合ってきます。



ミツバウツギも、図鑑で見ると「花期は五月」とありますね。教えていただいてありがとうございます。
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