散策しながらたまに通るかっての商店街、今は開いている店はない。そんな通りで薄くなって消えかかっている「鮎姿煮」の文字に気づいた。何か懐かしい気がし撮りながら、ここの姿煮を土産にして喜んでくれた人のことを思い出した。この店は今は新店舗で料理屋として営業されている。
その人は私より年下だが、転勤で上司として着任した江戸っ子だった。いつの間にか、仕事もプライベートも妙に気が合う関係になっていた。何故そうなったか思い出せないが、いつの間にかそうなっていた。たまたま私がテーブルマスターのような存在だったこともあり何かにつけて私を立ててくれた。部下の操縦術かもしれないが、上司としてしっかりした信念を持っていた。
その上司は更に上へのステップとして再び東京へ転勤することになった。送別会はその人お気に入りの郷土色を感じるある料亭で開いた。そんな岩国が気にいった人への土産は何がいいか思案した。ネットで検索など夢にも出てこない時代、かといってこれとこれというものも知らず、考えるといっても自分の行動範囲でしか情報はない。
思いついたのは、錦帯橋の架かる錦川は鮎の獲れる清流と知られている。そこの鮎を扱う老舗の料理屋兼魚屋で作られる「鮎の姿煮」だた。楕円の缶に入れられた数匹の鮎は、醤油と飴で骨までじっくり柔らかく煮込んであり味のしみ込んだ鮎は、子ども安心して口にできる。酒の肴、食事にもよく合う。気に入っていただけたのか所望もあり追送したことを思いながら懐かしい字体を眺めた。