市内から40数キロ山あい。途中で急な坂道に車を留める。そこから先は軽自動車がやっと通れると思える細い道、案内してくれた人の家はそんなところにあった。
足下には棚田が幾つかの方向へ向って下がっている。どの田もすがすがしい緑、俗っぽいが絨毯を敷き詰めたように見える。それと違うのは風の波が苗の先を揺らしている。幾筋もある小さな水路は梅雨の恵まれた雨量で勢いよく流れている。
この高台には5家族7人が棚田などを守っておられるという。訪れた家も、伝来の田畑をつぶすわけにはいかなという思いで、家族を町に残し「単身赴任中」ですと苦労がないように笑って話される。荒れたら回復できない先祖からの土地への思いが伝わる。
棚田を訪れる人は多い。大方が観光や美しい風景を残したい人で、棚田で働こうという人はまれにあるかないか、という。この高台は来年、学生の体験留学を計画されているという。ただ、美しい、いい自然だ、気持ちが和むなどといったひと時の感嘆だけでは守れない棚田、初めて見下ろした棚田が教えてくれた。
(写真:1枚1枚は小さいが幾段も重なると見ごたえがある)