イッツ・オンリー・トーク(絲山秋子著)

2022-10-11 00:00:13 | 書評
書名になっている『イッツ・オンリー・トーク』と『第七障害』の中編二作が併載されている。この数か月で絲山秋子の小説を続けて読んでいるが、小説家として巧みであるのか、さまざまなプロットを作り出していて、なかなか飽きる兆しがない。本冊の二つの小説にしても、同一作家が書いたとは思えない。登場人物が多様ということだろうか。



といって、一冊読んだからといって読者の人生観が変わるというようなことはないだろうが、大量に読むと影響があるような気がする。

『イッツ・オンリー・トーク』だが、とある女性が主人公で、引越しの朝、男に振られ、その後、EDに悩む区議会議員とか自殺に失敗した暴力的組織員とか、職業としての痴漢(被害希望女性をネットで集める)、家出した従弟とか不完全男性が次々と登場。人生は無意味であるというのか、無意味でも少しは楽しいというのか、最後は読者に任せる。

『第七障害』。障害とは馬術の障害競技。国体を目指す女性が主人公。練習中のミスで人馬転倒するときに愛馬が彼女を踏まないように三本足で着地したことによる骨折を負い、殺処分となってしまう。このことを心の深い傷として長い期間抱えてきた女性が様々な変な男の登場のあと、再び事故のあった馬術練習場に立つ。こちらの方がいいという読者もいそうだ。

量産型の作家ではない分、ストーリーに淀みがなく(読者の予想していない展開ではあるものの、「そうか」と納得する方向に進む)、読後感が非常に良い。

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