備蓄原油放出の影響

2021-11-28 00:00:37 | 市民A
各国共同で備蓄原油を放出して原油価格を抑えようとしている。特に米国のガソリン価格の対策らしい。その量は7000万バレル程度と報道されている。世界需要の約1日分。

これで、各国の石油会社が買っている原油価格が下がりガソリン他の製品価格が下がるのだろうか。

その前に、WTIとかブレントとかドバイといったSPOT価格が報道されているが、これらの価格で実売買をしている会社というか個人というかはほとんどいない。NY、ロンドン、東京の取引所でトレーダーが先物価格を取引したり交換したりして裁定日に差額決済している。トレーダーの後ろには投資家がいて勝ったり負けたりしているわけだ。

そして、原油の種類は非常に多い。油田によって異なり、あまり成分調整しない国もあれば、集約して比重調整したりしてくれる国もある。

原油からは、ガス、ナフサ、灯油、軽油、重油などいくつかの製品がとれるわけで、価格の高いナフサや灯油・軽油分が多い原油は値段が高いし、重油ばかりの原油は売れないのでバーゲンになる。奇妙なことにカロリーの少ない軽質油の方が高いということになる。

そもそも産油国が個別の原油の価格を決める方法だが、例えば中東原油なら、大まかに言うと数量は年間契約の月割りで月別の価格はドバイ価格に任意の調整をした上、ガソリンなどの市場価格(スポット)と製品種別イールドの加重平均値から精製費などを差し引いて決定する(ネットバック)。簡単に言うと、スポット価格に少しは調整するが、製品の市場価格も大きな要素ということになる。市場と言うのはアジアではシンガポール市場で、中国の需給状況が影響する。したがって、数量の大きな産油国はアジア向け、欧州向け、アメリカ大陸向けに別価格を適用している。

つまり備蓄原油を購入した会社が、原油処理を増やせば、製品在庫が上昇して製品価格が下がることもある。これは石油会社は最悪なので、原油の供給量が増えても生産量を上げることはないだろう。

石油会社は月別の契約数量を引き取らないわけにはいかないので、備蓄が崩された場合、製品生産を増やさなければ、原油在庫を積み上げることになる。実際には国内の国家備蓄が減った分、国内の民間在庫が増えることになり、産油国に痛痒は及ばない。そもそも産油国の論理も二分されていて、赤字国家は地下資源をどんどん現金化したいが、黒字国家はそう思わない。長期的最大利益を目指している。石油需要が壊滅しない程度に減産したいわけだ。

日本の場合、様々な理由の結果、国家備蓄はテレビで紹介されているような備蓄基地(海上タンクとか半地下構造とか、コンビナート計画が頓挫した場所とか)から搬出するのは無理が多い。一例だが大型タンカーには日本船籍がほぼないので外国籍タンカーを使うわけだが、外国籍船の国内転送はタンカーに限らず御禁制になっていて、抵抗勢力がいる。

一方で、石油会社の使っていない原油タンク(あるいは隣接地のタンク)を石油会社から借り入れて国家備蓄に使っている。それならば、放出は簡単でパイプがつながっていることが多いだろう。あるいは、パイプがなくてもタンクの賃貸契約をやめればそれだけで民間に売却と言うことになる。問題は入札価格だが、事実上、その石油会社以外は買えないので押売り価格になる。

その場合、物質的には原油の所有者が変わるだけで、何も変わらない。その後、また民間から国家に名義を変えれば旧に復し、石油会社は産油国から睨まれることなく従来通り取引していればいい。

もっとも、備蓄放出という手を安易に使うと、産油国がさらに減産を強める可能性もある。消費国の備蓄を吐き出させようという考え方だ。


そもそも石油時代終焉モデルの一形態がこの原油価格上昇シナリオだった。陸上の古典的油田はすでに開発されていて、海底下とか超深度、極地といった高コスト原油しか追加供給がないのだから100ドルまでどんどん上がっていき下がらなくなる。それによって代替エネルギーの供給採算ラインも上がってきて新規投資がそちらに向かうという図である。金欠国はエネルギー不足になり、停電多発国になる。

ところで、世界需要の1日分の在庫放出というのは、ソーメンを茹でる時の「差し水(びっくり水)」のような感じだ。調べてみると、鍋をカマドで熱していた頃の習慣で、現代では「ガス」あるいは「電力」を弱めるということで十分ということだ。いずれにしても茹で上がるしかない。