靴底戦争で見えたA社のドジ?

2020-01-28 00:00:14 | スポーツ
1月26日に行われた大阪国際女子マラソンで優勝し、五輪出場にかなり近づいた松田瑞生選手だが、記録は日本歴代6位。報道のかなりの部分は、薄底シューズのことであった。

ナイキのヴェーパーフライではなく、ニューバランスのNの字が目立つシューズなのだが、特注品で制作者は三村仁司氏(71)ということ。彼女は外反母趾で特注の靴が必要だが、ナイキの靴は市販品なので足には合わないということと、三村氏は靴の製作の第一人者ということで、元メジャーリーガーのイチロー氏の靴も作っていたということが報道されていた。

この「イチローの靴」ということに違和感があり、調べ始めると、意外なことが見えてきた。日本最大のスポーツ用品メーカーのアシックス社(本社は神戸)のことだ。


というのも、2014年4月29日の弊ブログ「アシックススポーツミュージアムで靴のサイズの話を聞く」にも書いたのだが、神戸ポートアイランドにあるアシックススポーツミュージアムに行った時の話だ。その時に、イチロー、ダルビッシュ、高橋尚子をはじめ多くのアスリートの靴はアシックスが特注で作っている、と言われ、イチローのスパイクや高橋さんのランニングシューズが展示されていた。

イチローの足は28.5センチ、ダルビッシュは30センチ以上ということで特注するしかなく、その割に靴が小さく見えたので、係りの方に質問をすると、オーダーシューズはぴったり作れるので小さく見えるということだった。高橋さんの靴は小学生用みたいな大きさに見えた。

しかし、松田選手はアシックスではなく、Nのマークの靴を履いていたわけだ。

ここで、三村氏の経歴の方と合わせていくことにする。1948年8月、加古川に生まれる。高校の時は長距離走を得意とし、卒業後、オニツカ(現アシックス)に入社し、シューズ製作の研究を続け、1974年から特注シューズの製作を始める。多くの競技用のシューズを手掛け、特にマラソン用としては瀬古利彦、高橋尚子、有森裕子、野口みずきなどのシューズを作っている。他のスポーツ用としてイチローや香川真司ということのようだ。ただしイチローの靴は途中からはアシックスの別のチームが担当している。

そして、アシックス在職中に2004年に「現代の名工(厚労省)」、2006年には「黄綬褒章」を受章している。黄綬褒章受章は58歳の時である。そして、2009年、アシックスを定年退職。おそらく60歳定年制であろう。功労者にしては早い退職のようにも思える。

退職後、高砂市に「M.Lab」というシューズ工房を立ち上げ、アディダスと専属契約をするが2017年に契約終了。2018年からはニューバランスとの契約がスタートしている。

本来なら、アシックス社が必要というなら何らかの継続雇用、あるいは工房との専属契約を考えそうなものだが、何か対立点があったのだろうか。あるいは過剰人員の削減中で、退社する社員を引き留めるような状態ではなかったのだろうか。真実はわからない。

さらにアシックスは、五輪が近いというのに経営状態が良くない。簡単に言うと「売れない」ようだ。一方で、数年前から始めている新ブランド「オニツカタイガー」の意味がよくわからない。なんとなく創業家(鬼塚家)に対する忖度から始めたのではないかとも感じられるのだが、国内でも海外でも受けそうもないネーミングだし、アシックスブランドとの関係も不明だ。

もう一つ、2018年には靴の研究データ3万ファイル以上が、退職した若手の研究職の社員の個人メールに添付ファイルとして送信され、その社員がドイツ系P社関連会社に転職するという事件も起きている。


ところで、多くの一流選手の靴は特注品なのだろうが、ナイキのヴェーパーフライの市販の靴を3万円で購入の上、靴底を破って、速さの秘密と言われるグラスファイバーのボードを取り出し、自分の靴底に埋めこむこともできそうに思える。そもそも禁止論が出ているが、靴底の中にグラスファイバーが仕込んであるかどうかを、どうやって検査するのだろうか。犬に嗅がせるのだろうか。たぶん、靴を壊すしかないだろう。