刑(けい)(綱淵謙錠著)

2017-05-15 00:00:13 | 書評
時代小説。時には時代小説を読むが、吉村昭のように事実を7割にして、残りの部分を作家の想像力や洞察力で補うようなものが好きで、さらにストーリーの外に時代の宿命や個人と世界の対峙のような壮大な背景が見えるとちょうどいい。

本著の作者である綱淵謙錠氏は、中央公論社で編集に携わった後、小説を書き始め、直木賞も受賞されている。編集のあと作家という方は時代小説家には多いパターンと思うが、作家達と接するうちに、歴史に詳しくなったり、「こんなものなら自分でも書ける」と過信するところからすべてが始まるのかもしれない。

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本書は、刑(幕末を舞台とした首切り浅右衛門の日常)、怯(択捉事件で無防備のままロシア兵に捕まったサムライのその後)、その他桜田門外の変や維新直後の武士たちの苦悩がつづられた短編集である。作風と思うが、あまり主観を強く入れずに、作者のコトバではなく登場人物に歴史を語らせるという方向である。

あと何作かは読んでみようかなと思っている。

ところで歴史(時代)小説で人気のある時代と言えば、戦国時代と幕末なのだろう。最近になって応仁の乱(室町中期)が人気になっているようだが、鎌倉時代や平安時代、また壬申の乱あたりが好きの人はそういないのではないだろうか。

私見ではあるのだが、現代の日本人の生活や思想や社会階層とかそういうものは、一見では敗戦や明治維新で築かれたと思われているが、実際は古代日本からの社会構造が、応仁の乱によって日本が無政府状態になった時点で、レジュームチェンジになったのだろうと思っている。混沌の中から武将トーナメントで将軍が決まったところから安定的国家とそれを支える思想や文化が生まれたのだろうと思う。

それなので、現代人にとって裏切りや無思想主義が横行する時代には共感がわかない。つまり、書いても売れない。ということなのではないだろうか。本来は古い時代の方が原資料が乏しく作家の腕の見せ所が多いのではないのかとは思うのだが、韓流ドラマ(現実性のない美しい国韓国)みたいになってしまうのかな。