『未完のファシズム』の行方

2011-06-16 00:00:27 | 書評
新潮社の書評雑誌「波」(1冊100円)には、いくつかの連載があるが、現在進行形なのが片山杜秀氏の『未完のファシズム』。6月号で第9回である。



実は、最初の頃は、深く読んでいなかったわけだ。日本が日露戦争の勝利の後、どうして泥沼にはまっていったのか、その失敗したファシズムの原因を、主に軍人の行動や思想を解析することにより明らかにしていこうという試みである。

そして、第9回にして、かなり核心に近づいてきたわけだ。

まあ、ひどく簡単に言うと、日本は仮想敵国をロシアにしていて、第一次対戦の時のドイツとロシアの戦いを分析していたわけだ。特にタンネンベルクの戦いで、不利と思われていたドイツ軍がロシア軍を包囲殲滅させたことを陸軍のバイブル「統帥綱領」や「戦闘綱要」に取り入れたことから、精神主義に走っていったとするわけだ。

その後、日本の戦い方として、「持たざる国」であるからの防衛型を主張する皇道派と、「持たざる国」を「持つ国」にするために積極的な満州支配を進める「統制派」との勢力争いの末、「統制派+精神主義」という妙な組み合わせのまま、日本は玉砕に向かうことになる、というように分析しているわけだ。

たぶん、「未完のファシズム」は、完成すれば一冊4000円ぐらいになるのではないかと想像するのだが、戦後、あまり触れられなかった、日本の暗黒時代の精神的病理を解き明かすには、書棚に一冊追加するしかないのではないだろうか。(私自身は、連載を読んでいるので今さら買うことはないと思うけど)