サーカス展(損保ジャパン東郷青児美術館)

2007-08-19 00:00:31 | 美術館・博物館・工芸品
52a98db4.jpg日本でサーカスと言うと何か暗いイメージが漂う。昔々、あるところで子供がサーカス団に売られました。というのは、実話だったのだろうか。たまにはあったのだろう。日本のサーカスは、「巡業興行」を中心ビジネスにしていたから、旅の連続で住所不定。巡業が嫌だと思っても、仮病は認められない。学校には行けないし、そのうち、虎に食われたり、ブランコから落ちて、幼い人生にピリオドが付き、夜中に公園に埋められたり、川に流されたり・・


今回の展示を見て、強く感じたのは、外国人画家の描くサーカスと日本人画家のそれが、あまりにも異なる方向であること。

外国人画家として今回大量出品しているのはルオーとシャガール。さらにマティス、ローランサン。

ルオーは特にピエロを描く。それも1930年代の「サーカスの中のピエロの存在」をとらえた一連の作品群と、1950年代の「ピエロの内面に入り込んでいった」作品群が出品されている。30年代の「組織の中の個人」から50年代の「個人の内面」への進化というのが20世紀の個人主義の発展と限界という大テーマと無関係なわけではないだろう。慾を言えば、ルオーの描く強烈な人物像は、「できれば、個室の白い壁に一枚だけにして鑑賞したい」ということなのだが、そのためのスペースとしては、この美術館の出口の方にある「ゴッホのひまわりコーナー」をつぶしてしまえばいいのだろう、が・・

シャガールの描くサーカスは、また楽しい。もともと彼の描く神秘的な世界は色彩にあふれている。実際のサーカスはどうしても原色が多くなるのだが、シャガールの色彩は、世界中の誰もまねのできないファンタスティック・カラーだ。そして、彼の作品に多数登場する、謎の馬と謎のニワトリも違和感なく感じられる。そう、サーカスはファンタジーの世界なのだ。


52a98db4.jpg一方、日本人の描くサーカスは、どうみても暗い。安井曽太郎、東郷青児、国吉康雄、長谷川利行など。人身売買曲馬団というイメージだ。暗く沈んだそれらの画調は明治以降の日本が、都会と田舎の二元性を持つ国家で、その対立の象徴がサーカス、というように描かれている。

絵画ではないが、写真家である丹野章氏の「日本のサーカス」というモノクロの連作集が20点出品されている。リアリズムという手法である。これをみると、 やはり曲馬団という気もしないではない。1956年の作。

一方、サーカスを肯定的に描いた数少ない画家の一人が川西英(1894-1965)。神戸在住の彼は、幼年の頃より、神戸を訪れる外国のサーカス団を見て、感動に浸っていたそうだ。(おそらく、海外から日本公演に来るときに、神戸か横浜港を使っていて、日本開帳公演、あるいはサヨナラ公演をしていたのだろう)彼は別名、「サーカスの川西」と言われていたそうで、その画風は明るく、色彩にあふれる。もちろん、彼が見慣れたサーカスが外国人の出演者だったからなのだろう。あるいは、彼は画家の傍らビジネスマンで大成功。幾多の会社の社長を勤めていた。日本の二元性など気付いていなかったのかもしれない。


52a98db4.jpgさて、ちょっと気になって、サーカスの歴史を調べてみた。1770年にフィリップ・アストレーがロンドンにサーカス小屋を建て、曲馬にアクロバット、綱渡りなどの演目を加えて行ったものといわれる。アストレーはパリへの巡業も行い、王妃マリー・アントワネットも観たという。その成功からロンドンではサーカス団が次々に誕生し、やがてヨーロッパ各地からロシア・アメリカにまで広がったそうだ。

ロンドンには○○サーカスという場所があり、「サーカスとは関係ない」と日本の英語の授業では教えるが、関係あるのかもしれない。
そして、マリー・アントワネットが観たというのだが、マリーは1785年、ダイヤの首飾り事件以降、民衆の敵というレッテルを貼られ、1789年の革命時、逃亡に失敗し、捕縛される。そして1793年、殺人新兵器のギロチンの餌食となる。その後、大量殺戮の時期が終わり、1800年代のパリではサーカスが多数開催される。つまり、公開処刑の後の人民の楽しみが、サーカスに変わったということなのだろうか。フランス人がその仮説を認めるわけないだろうが。


ところで、現代のサーカスとも言えるカナダ発信の「シルク・ドゥ・ソレイユ」。”アレグリア2”を観にいったことがあるのだが、どうも現代のサーカス団に入隊するには、体操競技でオリンピック代表のレベルの腕前が必要なようだ。それでも、時々安全ネットに落下していた。ちょっと絵にならない。

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