安宅コレクションの一部を見る

2007-01-21 00:00:35 | 美術館・博物館・工芸品
917efc03.jpg先週末、大阪に立ち寄る機会があった。大阪と言えば「魔界」である。そういう魔界的なものを取材したいとは頭をかすめたが、なにしろ部外者にとっては、ディープ・ラビリンス。新宿歌舞伎町よりも危険を感じるので、そのうち現地ガイドを探してから突入することにし、とりあえずは「うわべの文化」の方をなぞってくる。それほど時間もなかったし。

そして、実は、あまり大阪のことは知らない。平日に行くと、仕事で時間がいっぱいになり、飲んでも7時頃で慌しくお開きになる。今回は、とりあえずデイタイム1日を使って、駆け足ベースとする。本当は「海遊館」という水族館も狙っていたのだが、それだけになりそうで、ハズレだと困る。また、通天閣地下の「日本最大の将棋道場」も今は閉鎖されているはず。とりあえずは、大阪城と万博公園とあと一つ二つの美術館、と思って、思いついたのが「藤田美術館」。先日、わざわざ東京世田谷の山を登って辿りついた三菱のお宝箱である「静嘉堂文庫」では、国宝の曜変天目茶碗は展示されていなかった。世界に三客あるとされる残り二つは、京都に一客、そして大阪藤田美術館に一客ある。江戸の仇は大坂で、と秘かに地図の用意もしていた。

が、大坂城の天守閣の上から、その傍に位置する藤田美術館に電話すると、美術館自体が、春と秋の数ヶ月間だけの会館で、その他の時期は開いていない、とのことだ。次は3月開館。段々わかってきたのだが、大阪では、このように多くの美術品が数奇な運命にある。藤田美術館のホームページを見ても、画像の著作権が岡山市にあるなどと、意味不明の記載がある。岡山市がカネでも貸してHP上の画像でも担保にしているのだろうか?そして、第二候補だった、大阪市立東洋陶磁美術館に向かう(その他の立ち寄りスポットの情報はまとまり次第公開予定)。美術館は、日本の商品取引所の発祥の地とされる北浜の近く、中之島である。

前段でも書いたが、大阪にある奇妙な美術品群の一つが、この東洋陶磁美術館にある「安宅コレクション」である。1976年に破綻した総合商社安宅産業が社費を流用して収集していた東洋陶磁器一式約5000点を住友グループが大阪市に寄贈。この中型の美術館の大部分はその安宅コレクションを展示している。

安宅産業の主力銀行は住友銀行で当初は住友商事への吸収が検討されていたが、途中で話がこじれ、結局、大部分の商権と小部分の社員が伊藤忠商事に吸収される。ほんの一部はイトマンに商権委譲されるが、このイトマンもバブルの時に不明朗な美術品取引を行い、そのコレクションもどこかに「イトマンコレクション」で保管されているはず。安宅産業の整理にあたっては、美術品などの資産も一括して住友銀行が回収したのだろうが、一挙に放出すれば、美術品価格の暴落を招くため、じっと抱えていたのだろう。全部展示しようにも多すぎる。

917efc03.jpgそういうことより、市立の美術館にそっくり寄贈してしまえば、市立美術館自体が住友美術館のようなものになるのだし、維持費もかからない。「寄贈」ということの会計上の意味はよくわからないこともあるが、とりあえず気にしない。


たまたま、美術館では「梅瓶展」が開かれていた。「メイピン」と中国風に読む。平たく言えばとっくりとは逆に上が広くて下が狭い容器のことを梅瓶と呼び、実用的には酒を入れていた。と言うか早い話が日本の徳利の先祖だと思う。日本は地震が多いから下が小さいと安定を欠き、ひっくり返って大事なお酒がこぼれてしまうから、とっくりは下の方が広くなったのだろうが、学術的には、そんな説は聞かない。日本・朝鮮・中国の各種陶磁器に同様の形が見受けられる。


そして、この安宅コレクションの質の高さを見せ付けるのが朝鮮磁器である。古代朝鮮から青磁の時代になり、さらに白磁の時代がくる。きめ細かな肌のつやは世界に例をみない。一つ一つが絶品としかいえない。社費で買い込んで会社がつぶれたのも無理からぬところだ。青磁から白磁に移る過程で、「儒教的な清潔さ」で白が好まれるようになった、とは表の理由で、裏の理由としては、中国から輸出停止措置を受け、「コバルトの入手ができなくなったことによる」と説明されていた。しかし、すばらしい青磁・白磁の歴史も20世紀になり、朝鮮半島ではさっぱりだそうだ(誰のせい?)。

また、気になるのは、日本では地方地方でまったく異なる文化として、各種の陶器が独自路線で多様化していったのにもかかわらず、朝鮮半島では、同時代統一性というべき現象で、どこでも同じものを作るということになっていた。そういう国と思えばいいのだろうか。

917efc03.jpgそして、中国コレクションになると、多彩なデザインが華々しい。そして何しろ歴史が古い。10世紀より以前の作も多数展示されている。「これは敵わないな」、という諸々の中に「国宝」があった。「油滴天目茶碗」。茶碗内側の模様が油の粒のようになっている。曜変天目ジュニア版だ。時代も12世紀の南宋ということで同じだ。思わぬところで、ジラされてしまった。

そして、目が肥え過ぎてしまい、昼食のバッテラ鮨をつまみながら、各種資料を読んでみると、大阪市には「幻の市立美術館計画」があるということがよくわかった。建設予定地を入手したものの、土地の汚染問題や、文化財の発掘問題などで遅れに遅れるうちに大阪市自体が財政危機に落ち込む。それでは、建設を凍結してしまえばいいではないかということなのだが、一方に大問題がある。既に展示予定の美術品を大枚約150億円で購入済みということらしいのだ。どこかの倉庫に長期保管されているはずだが、それは防犯上の理由で明らかにされていない。やっと陽の目を見るときに、ネズミの餌になっていたということがないことを祈っておかねばならない。まあ、安宅産業とやっていることは同じようだが、大阪市を吸収合併しようという都市もないだろう。何しろ、ここの市民が手強い。エスカレーター右立ち方式を新大阪以外のすべての大阪の駅で実行している。

もっとも、東京には新国立美術館のように、美術品がなく、建物だけを建ててしまった例もあるのだから、まったくうまくいかないものだ。