世界を震撼させなかった企業と自ら震撼した企業

2007-01-15 00:00:41 | MBAの意見
日本時間1月9日04時15分頃、超大型タンカー(VLCC)「最上川」と米軍の原潜「ニューポート・ニュース」がホルムズ海峡で衝突した。衝突後、間もないニュース(毎日)はこう書く。

<米軍原潜>日本のタンカーと衝突 アラビア海で [ 01月09日 11時32分 ]
 ロイター通信は9日、日本の防衛省報道官の話として米軍の原子力潜水艦と日本のタンカーが中東のアラビア海で衝突したと報じた。負傷者の有無は分かっていない。
 米テレビによると、アラビア海に近いソマリアでは米軍の攻撃機が国際テロ組織アルカイダの拠点を攻撃。軍事作戦を支援するため、アラビア海北部から空母「アイゼンハワー」がソマリア沖に向かっているという。空母戦闘部隊の移動と今回の衝突との関係は不明。


「最上川」は日本三大船会社の一つである川崎汽船所有船で長さが333メートル。東京タワーと同じ長さの超大型船。原潜ニューポート・ニュースも長さ100メートル超。原潜の活動内容が不明からかどうかわからないが、タンカーの行く先もシンガポールと報じられているが、シンガポールでは燃料を補給するだけで最終目的地は日本のある製油所の予定だった。

毎日のニュースの中で、アラビア海と書かれているが、念のために世界地図を拡げてもらえば、アラビア海という表示が書かれていない場合もある。「ペルシャ湾」と書かれているはずだ。実は、「日本海か東海か(最近、北側のスパイが「平和の海」と言い出した。拉致被害者がこの海を連行されたことや、ミサイルの実験場になっているのに平和の海、とはいい玉だ)」というのと同じで、湾岸国、特にイラン(ペルシャ)とサウジアラビア(アラビア)とが互いに湾の名前を奪い合っている。英語では「Persian Gulf」か「Arabian Gulf」かであって、「Arabian Sea」とは言わない。日本の新聞社がアラビア湾ではなくアラビア海などと実在しない名前を使うのは、いざと言う時に巧みにごまかす知恵なのだろう。本エントリでは、どちらの国民も怖いので、単に「ガルフ」と書く。

ホルムズ海峡は、このガルフの入口に当たるのだが、幅は一見40キロもあるのだが、このVLCCのように満船の時に深さが30メートルを越える大型船が通行できるのは幅10キロ程度だ。ガルフ沿岸のイラン・イラク・サウジ・クウエート・UAEなどで積み込まれたタンカーはすべて、このホルムズ海峡を通過する。交通量は相当多い。特に、日本勢は8割の原油がこの海峡を通り、さらにそのほとんどがマラッカ・シンガポール海峡を通過する。日本だけでなくホルムズ海峡は世界の原油の20%を支えているのだ。

そして、潜行中の潜水艦はタンカーの底部に衝突し、穴を開けてしまったのだが、不幸中の幸いで両船とも軽微な破損ですんでいる。積荷の原油は地下から産出されたままのものであり、軽質で引火性の高いガス留分を多く含んでいる反面、一度着火すると消火が困難な重油留分を大量に含んでいる。一方、原潜は原子炉を搭載している。

仮に、衝突・炎上ということになればガルフ入口が火の海になり通航禁止。さらに核汚染となってしばらくの間、世界中で石油不足が起こる可能性があったはず。

では、なぜタンカーの底部に穴が開いたのに、原油の流失が起きなかったかといえば、「ダブル・ハル」だったからだ。”ハル”とは「殻」のことを指す英語で、簡単に言えば、ダブル・ハル・タンカーの底の部分は、空洞になっているため、海水が流入しても、貨物油タンクからは漏れないことになっている。

10年近く前だが1997年に東京湾で「ダイヤモンド・グレース」というこれも超大型タンカーが湾内の浅瀬に接触。こちらは、もろくも原油漏洩し、東京湾内全域に油膜が拡がり2日間、全面航行禁止になったが、生鮮食料品や魚介類が市場に荷揚げできないと東京人の食い物が枯渇するため、超政治的判断で通航可となった。この時のタンカーはシングル・ボトム型で厚さ10センチの鉄板の一枚下は海、上は原油だ。タンカーをチャーターしていた石油会社は今は存在しない。向け先の製油所も現存しない。

このタンカーのダブル・ハル化だが国連の下部団体であるIMOでMARPOL条約が2003年に締結されている。段階的に2015年までに、全タンカーがダブル・ハル化する予定だ。そして、既に多くの欧米先進国では国際条約に先んじて国内法令でシングル・ボトムを禁止している。もっとも日本でも優良企業は既にダブル・ハル化を促進していて川崎汽船もそうだ。だからこそ大事故は防げた。ところが日本も法令上ではなかなかそうはいかない。そういう話を聞くと、もう日本にいること自体が恥ずかしくなる。

今や、世界のタンカーの50%強がダブル・ハルである。規制をしないと、世界中から危険なシングル・ボトム・タンカーが日本に向かうことになる。

個人的な話だが、ちょうど事故の前営業日の1月5日の午後、しばらく持っていた川崎汽船の株を利益確定で売却していたのだが、それは事故とは無関係である。


次に不二家。報道の通りとすれば、自業自得としかいえない。語る言葉もないという感じだ。言い訳も困難だろう。不二家でなく「不治の病」だ。

ところで、問題があったネズミの多い埼玉工場だが、川越街道と浦和所沢線の交点の近く(新座)だったと記憶する。遠い昔に勤めていた会社で、その工場にチョコレート色のある製品を納入していたことがある。そんなもの使っていいのかなあ、という代物。そして、工場の近くに行くと、かなり遠くのクルマの中でもバニラの臭いが感知できた。近くに住みたくない工場の一つだろう。

何か、1年中クリスマス用のケーキを焼き続け、シーズン以外はスポンジ部分を冷凍しておく現在のケーキ商法に影響が出ることはないのだろうか、とダメ押し。