国宝 伴大納言絵巻展(~11月5日)

2006-10-18 00:00:25 | 美術館・博物館・工芸品
2cdaa019.jpg皇居前、帝国劇場と同じビルにある出光美術館に足を運ぶのは久しぶりだが、驚いたのは、大改装されていて、展示スペースもかつての2倍ほどもあるような感じだ。

おそらく、まもなく来週10月24日に予定される、「出光興産新規株式上場」に向け、一方で社員のリストラで事務所に余裕が生じ、かたや美術館の整備という二つのイベントが重なったのだろう。創業95年前、売上高2兆8000億円以上の会社が、なぜ、今頃上場するのかについて、書きたいことはあるのだが、先日のビックカメラのように公募価格を超えていたのは僅か1日だけで、あとは奈落に落ちた例もあり、公募割れの時の犯人探しに引っかかるのも嫌なので、黙っている。ただし、最初から一株9500円という、なんとなく天井感のある株価を設定しなくてもいいのに、と非科学的に心配する。

さて、展覧会の方の話だ。この伴大納言絵巻展は、非常におもしろい。数多くの方がブログ化されているので、今更感もあるが、源氏物語絵巻をはじめとする日本四大絵巻に数えられる。そして、絵巻の下敷きとなるストーリーは実際の史実である「応天門の変」と呼ばれる平安時代初期の政変をもとにしている。主人公の伴大納言は太政大臣、左大臣、右大臣に継ぐ政界のナンバー4だったのだが、出世欲が強く、ナンバー2の左大臣を失脚させようと、御所南側にある応天門に放火し、それを左大臣のせいである、と天皇に告げ口。しかし、告げ口をすぐに信じるわけでもなく天皇の独自調査の結果、証拠不十分で左大臣は無罪。

放火事件は、そのまま迷宮入りになりそうだったのだが、ひょんなところから犯人が現れる。伴大納言の家来のこどもが舎人のこどもを喧嘩でいじめるところから、伴大納言の家来が放火した現場の目撃者、つまり、いじめられたこどもの仇を討つため舎人が証人として訴え出る。そして、放火犯に対する厳しい取調べの結果、大納言自らの関与が立証され、本来死罪のところが、一命を許され、伊豆の国に流される。

そして、絵巻は、・・・

上・中・下と三巻にわかれ、それぞれ、手が込んで描かれ、人物たちの表情は豊かだ。燃え上がる応天門の風下側の庶民の恐怖に怯える表情と風上側の貴族の余裕の表情の描きわけや、天皇からの処分の勅書を待つ不安げな女御たちの所作。さらに、主人を検非違使に逮捕された大納言の屋敷の悲嘆などが生き生きと描かれている。

ところが、この絵巻を最新科学で分析すると、いくつかの謎があるそうだ。紙継ぎ箇所が不審だったり、登場人物が一箇所で切り取られていたり、さらに、絵巻のストーリーをよく考えると、歴史上に信じられている「伴大納言犯人説」に、後年の歴史家がわざと疑問を持つように矛盾点を含ませている。

なにしろ、歴史上の応天門の変は866年。一方、この絵巻を書かせたのは、後白河天皇と言われ、時代は300年ほど下っている。実は、応天門の変の2年後868年には、左大臣も右大臣も、また、この大納言も相次ぎ死去している。何かが起きたのだろうがそれは明らかにされることなく、生き残った太政大臣藤原良房の天下となり、後に藤原北家による摂関政治につながっていくのである。

そういう意味で、あれこれ考える展覧会で素晴らしく楽しい。欠点といえば、展示が巻物なので右端から観ていくしかないのだが、前の人が進まないと列が前進できず、かたつむりのように移動するしかないのである。愛・地球博の冷凍マンモス館のように動く歩道が必要なのかもしれないのだ。