タイヤを換えた

2006-09-29 00:00:08 | マーケティング
09eecfba.jpg福岡の海中転落事故のせいもあり、タイヤを買い換える。36,000キロ走行したということで、もう少しがんばることはできるかもしれないし、スリップラインも出ていないのだが、元々スポーツタイプのクルマのファクトリータイヤなので、溝が浅く、雨の日はよくスリップしていた。それと、いつもの通勤路にガソリンスタンドがあるのだが、交換済みの古タイヤの山を見ると、どうみても自分のタイヤよりきれいなのが多い。夜中にそのまま自宅まで転がして行けばよさそうだが、見つかった場合、失うものの方が大きそうなのでやめておく。それに、次のクルマの買替えの時期までの予想距離とか考えると、もう買ってもいいかな、ということ。

ところが、タイヤというのは選ぶのが難しい。もともとの純正タイヤはダンロップだったのだが、ファクトリーモデルは安っぽい。どうせ金を払うなら、普通のタイヤの方がいい。問題は、どういう目的でどういうタイヤを買えばいいかなのだが、これが簡単な話ではない。タイヤの機能というのは様々で、長所と短所がそれぞれ相反する。まず、どういう機能が求められているのか。

高速での制動力、コーナーでのグリップ力、雨の日の排水力。そして駆動を無駄なく路面に伝えなければならない。さらに、できれば腰骨にも優しい柔らかさとか路面音を拾わないような静粛さ。さらに燃費は重要だし、タイヤそのものの耐久性も重要だが、運転性能に影響しないように軽いほうがいい。

ところが、それらは相矛盾した要素であり、すべてを満たすタイヤは不可能である。となれば、自分で、どういったシチュエーションでクルマを使うか?ということを決めなければならないのだが、これは難問だ。

だいたい、その日によって、高速道路を2時間半運転して群馬県にゴルフに行ったり、雨の中、近くのスーパーに行かなくてはならなかったりする。腰痛の出るジメジメした日は、限りなくショックがないようにマンホールの蓋だってよけて運転することもある。犬を乗せたり、液晶テレビを買って車で運ぶときは、慎重に運転するし、時には、砂利混じりの近道を走ったりする。

例えばの話、愛人Aを同乗させると、18歳免許取立てのような荒っぽい運転を要求されることもあれば、愛人Bを乗せたときはハイヤー運転手のような滑らかな走りが必要なこともある(と単に想像)。

靴ではないのだから、そのつど長靴やスニーカーや高級品や安全靴に履き替えるわけにはいかない。すべてを1種類で対応しなければならない。

その結果、ごく普通のタイヤを選ぶことになる。

メーカーも国産は主に4社。ブリジストン、ダンロップ、ヨコハマ、トーヨー。輸入はミシュラン、ピレリなど。結局、4本計で1万円高いがブリジストンにする。どういうタイヤかというと、「運転が楽になるタイヤ」ということらしい。まったく抽象的だ。実際は、ハンドルが軽くなったが、直進性がちょっと落ちたような。ただ、高速でのグリップ力は今までより格段に優れているような気がする。自分でトライはしないが、早実・斉藤投手の球速くらいは楽に出そうである。

ミシュランはゴムが堅いので燃費はいいが、第四腰骨に優しくない(ちょっと曲がっているので)。ベンツを買った時のためとっておく。

ところで、タイヤの世界はかなりの寡占が進んでいて、世界的にはミシュラン、ブリジストン、グッドイヤー3社で世界シェアの過半を握っている。さらに日本勢3社など上位10社程度でシェア8割が握られている。また、ラジアルタイヤの中に使われるワイヤーには過度の性能が求められ、高級品を作れる鋼材メーカーは限られている(新日鉄釜石など)。それなのに、価格競争はかなり厳しい。早い話が付加価値がつけづらいところによる。


少し前のことだが、ある大手石油会社(来月上場するのだが、一兆円もの有利子負債を抱え、さらにその約半分は1年以内の返済時期という瀬戸際状態で上場審査をパスした、というのはどうにもわからないのだが)の話を聞いた。自社ブランドのタイヤを系列スタンド売ろうとしたのだ。

ブランド名は既に忘れてしまったのだが、その石油会社はタイヤを米国のメーカーにOEMしたわけだ。そして、アメリカ的に納期はズルズルと遅れ、日本にタイヤが到着したのは、全国一斉販売のわずか数日前ということだったわけだ。東京の配送センターに全国へ出荷前の新品タイヤの山ができる。そして、運良く(運悪く)問題が発覚する。

タイヤ表面から数センチ程度のゴムの糸とか紐状のものが、あちこちに、ピュッと飛び出していたそうなのだ。早い話がどうでもいいような話だが、表面の仕上げが完璧でなく見栄えが悪いわけだ。もちろんちょっと走れば関係なくなる。ゴムの小さな突起など、アメリカ人は気にしないのだろう。

もちろん、日本ではそうはいかない。突起付きタイヤでは1本も売れない。そして、その会社では関東地区にいる社員を大集合させ、文字通り人海戦術に頼るしかなかったわけだ。もちろん、各自、机の中から事務用ハサミを持参しなければならなかった。実は、ハサミで突起を切り取る作業自体は、きわめて簡単なのだが、それよりも神経と体力をすり減らしたのは、重いタイヤの包装を一本ずつ開封し、ハサミで整形してから、また元の包装に戻すという作業だったそうだ。

つまり、長く果てしない徹夜の懲役作業が、深夜の倉庫で続けられていたわけなのである。

その後のタイヤ担当者の運命は不明だ。