三重県木本で虐殺された朝鮮人労働者の追悼碑を建立する会と紀州鉱山の真実を明らかにする会

三重県木本で虐殺された朝鮮人労働者の追悼碑を建立する会と紀州鉱山の真実を明らかにする会

対熊野市訴訟上告理由書 1

2012年08月16日 | 紀州鉱山

 上 告 理 由 書

上告提起事件番号 2012年(行サ)第10号
上告人      金 靜 美
上告人      竹本  昇 他3名
被上告人     熊野市
                   2012年8月15日

第1 はじめに
 上告人らを会員とする紀州鉱山の真実を明らかにする会は、紀州鉱山に強制連行され亡くなった朝鮮人の追悼碑を建立するために、被上告人に対して追悼碑建立のための土地の提供を求めた。他の自治体では、追悼碑建立のために公共用地を提供している。しかし、被上告人が、理由を告げることなく土地の提供を拒否したので、紀州鉱山の真実を明らかにする会は上告人の名義で土地を購入して追悼碑を建立した。
 ところが、被上告人は、この土地に固定資産税を課税してきた。さらに、上告人らが行った固定資産税減免申請に対して、被上告人は「公共性が認めらない」としてこの申請を却下した。
 そこで、上告人らは固定資産税賦課処分及び減免不承認処分の取消を求める訴えを提起した。
 ところが、一審の裁判においては、日本国家と地方行政体と企業が関与した朝鮮人強制連行の歴史的事実に触れることなく、
    「固定資産税の非課税範囲は限定的に法定(地方税法348条2項各号、同条4項ない
   し9項)されており、それ以外の固定資産税を非課税とすることは許されない」(一審判
   決文17ページ下から2行目~18ページ上から1行目)
として、課税処分は適法であるから、上告人らの課税処分取消しの訴えは理由がないとして棄却した。
 また、減免を認めないことについては、
    「固定資産税の減免を許容できるような公益性が……認められない」(一審判決文19
   ページ上から2行目~同ページ5行目)
   「「史跡 英国人墓地」の敷地部分が公有地であるとうかがわれることに照らすと、そもそ
   もその前提を異にするから、採用の限りではない」(一審判決文19ページ上から8行目~
   同ページ上から10行目)
として、被上告人の減免不承認処分を適法とした。
 そこで、上告人らは、これらの判決に対して、一審判決の取消を求めて控訴したところ、二審判決は、一審判決を追認して、一審と同様な判決を行った。
 しかし、この判決は、紀州鉱山に連行されそこで亡くなった英国人捕虜に対する被上告人の対応と、同じく、紀州鉱山に強制連行されそこで亡くなった朝鮮人に対する被上告人の対応において、次に述べる10項目の憲法の条文に違反するので一審及び二審判決は破棄されるべきである。

 第2 原判決の憲法違反について
1 憲法11条「基本的人権の享有と本質」違反
 日本政府・日本軍は、泰緬鉄道の工事の強制労働で生き残った英国人捕虜などを日本に強制連行した。そのうち300人の英国人捕虜が、石原産業が経営する紀州鉱山で強制労働させられ、坑内事故などで16人が死亡した。この16人の死者については、被上告人は「供養経費」の名目で公金を支出したり、被上告人が管理運営する鉱山資料館において死亡した16人にかんする展示をおこなったり、遺骨がない「英国人墓地」を「史跡」として「文化財」に指定して、公共性を認めている。
 一方で、被上告人は、他の自治体が強制連行などの犠牲者に対する追悼碑建立の運動に行政として協力しているにもかかわらず、日本政府と地方行政が関与した強制連行によって紀州鉱山で亡くなった朝鮮人を追悼する取り組みと、その追悼碑建立の土地に対しては公共性を認めず、自治体として歴史的事実の調査も行うことなく、上告人の取り組みを行政の課題として受け止めることもなく、追悼碑の建立の要求を拒否し続けてきている。英国人捕虜と、朝鮮人労働者に対するこのような被上告人の対応のちがいは、国や民族の違いによる不公正で差別的な対応である。
 このように、紀州鉱山で亡くなった16人の英国人捕虜に比べて、同じく強制連行され紀州鉱山で亡くなった朝鮮人に対する不公平で差別的な対応は、朝鮮人の基本的人権を侵害するものであり、憲法11条に定める「すべての基本的人権の享有を妨げられない……侵すことのできない永久の権利」に違反している。
 なお、憲法11条にいう基本的人権における外国人の人権についての最高裁の判例は、
     「法の下の平等の原則は、特段の事情のない限り、外国人にも類推される」(最高裁
   大法廷 1964年11月18日 最高裁刑事判例集18-9-579)
のとおりであり、朝鮮人が含まれることは言うまでもない。まして、英国人は含まれるが朝鮮人は含まれないということではない。

 2 憲法12条「自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止」違反
上告人らが登記人となって購入した土地は、上告人らの私的な使用を目的としたものではなく、強制連行という歴史的事実を明らかにし、その歴史的責任を追及するための公共の使用を目的とするものである。そのことは、上告人らを含めた「紀州鉱山で亡くなった朝鮮人を追悼する碑を建立する会」をはじめ、この追悼碑の土地に集う人々は、植民地支配という国家犯罪を糾して社会正義を求める自由と権利を保持し行使しようとするものであり、現にこの土地は、そのように使用され、公共の福祉のために利用されている。しかるに、一審及び二審の判決は、追悼碑建立の根拠となる強制連行の事実を審理の対象から外し、土地利用の公共目的の使用を根拠づける歴史的事実についての検証を怠っている。この検証を怠った一審及び二審の判決は、憲法12条で定める「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」という規定に違反している。

 3 憲法13条「個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉」違反
  強制連行の加害の事実を明らかにすることは、朝鮮人犠牲者の幸福追求の権利を奪い取ったことに対する日本政府、地方行政、企業の反省と謝罪を覚醒させ、犠牲者に対する尊重の意を醸成させるものであり、公共の福祉にも合致する。しかし、一審及び二審の判決は、強制連行の歴史的事実に触れることを避けて、被上告人の歴史的責任を審理から外すことによって、強制連行の犠牲者や遺族らに対する人権の侵害を無視している。これは、憲法13条に定める「すべて国民は、個人として尊重される。生命、……及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他国政の上で、最大の尊重を必要とする」という規定に違反している。

4 憲法14条「法の下の平等」違反
 実質課税の原則を確認した最高裁判例。
    「課税対象となっている個人の所得とは、当該個人に帰属する所得を指称するものであ
   ることは勿論であるが、その所得の外見上又は法律形式上の帰属者が単なる名義人に
   過ぎずして、他にその終局的実質的享受者が存在する場合、そのいずれを所得の帰属者
   として課税すべきであるかについて問題が生ずる。思うに、国家経費の財源である租税は
   専ら担税能力に即応して負担せることが、税法の根本理念である負担公平の原理に合し
   且つは社会正義の要請に適うものであると共に、租税徴収を確保し実効あらしめる所以
   であって、各種税法はこの原則に基づいて組み立てられており、又これを指導理念とし
   て解釈運用すべきものと云わねばならない」(1962年6月29日最高裁判所第2小法廷
   判決 1959年(あ)第1220号 所得税法違反)。
上記の最高裁判例が示すように、本件の土地所有者は、「外見上又は法律形式上の土地所有者が単なる名義人に過ぎない」場合に該当するものである。にもかかわらず、この事実を無視して、本件の土地が追悼碑建立を目的とするものであるという実態を配慮することなく、この土地を一般的な住居建築の宅地と見なし、単なる名義人に過ぎない土地所有者に課税したことは、実質課税を原則とする最高裁判例と相反する。
 また、二審判決は。
    「史跡英国人墓地の敷地部分が公有地であるとうかがわれることに照らすと、そもそも
   その前提を異にするから、採用の限りではない」(二審判決9ページ下から5行目~同ペ
   ージ下から4行目)
としたが、史跡英国人墓地の敷地と強制連行され紀州鉱山で亡くなった朝鮮人を追悼する碑の敷地は、どちらも実質は、「追悼の場」であることにおいては異なるところがないのに、最高裁判決に相反して実質的判断を避けて、単なる所有者の違いという外見上又は法律形式上の判断によって負担公平の原理に背き、亡くなった英国人捕虜と亡くなった朝鮮人に対して不公平な対応をする一審及び二審の判決は、憲法14条に定める「法の下に平等であって、……政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という規定に違反している。

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