きょう(8月15日)、熊野市を被控訴人とする名古屋地方裁判所の判決に対する「上告受理申立て理由書」と「上告理由書」を最高裁判所にだしました。「上告受理申立て理由書」の全文は、つぎのとおりです。
上告受理申立て理由書
上告受理申立て事件番号 2012年(行ノ)第12号
申立人 金 靜 美
申立人 竹本 昇 他3名
相手方 熊野市
第1 はじめに
紀州鉱山の真実を明らかにする会は、紀州鉱山に強制連行され亡くなった朝鮮人の追悼碑を建立するために、相手方に対して追悼碑建立のための土地の提供を求めた。他の自治体では、追悼碑建立のために公共用地を提供している。しかし、相手方が、理由を告げることなく土地の提供を拒否したので、紀州鉱山の真実を明らかにする会は、申立人の名義で土地を購入して追悼碑を建立した。申立人の名義で土地を購入したのは、紀州鉱山の真実を明らかにする会という組織名では土地を購入・登記できないからである。
ところが、相手方は、この土地に固定資産税を課税してきた。さらに、申立人らが行った固定資産税減免申請に対して、相手方は「公共性が認めらない」としてこの申請を却下した。
そこで、申立人らは固定資産税賦課処分及び減免不承認処分の取消を求める訴えを提起したところ、一審裁判は、日本国家と地方行政体と企業が関与した朝鮮人強制連行の歴史的事実に触れることなく、課税処分は適法であるから申立人らの課税処分取消し及び減免不承認処分の取消の訴えは理由がないとして棄却した。
そこで、申立人らは、一審判決の取消を求めて控訴したところ、二審判決は、一審判決を追認して、一審と同様な判決を行った。
しかし、この判決は、次の第2に示す最高裁の判例と相反するので、破棄されるべきである。
第2 実質課税の原則を確認した最高裁判例
「課税対象となっている個人の所得とは、当該個人に帰属する所得を指称するものであ
ることは勿論であるが、その所得の外見上又は法律形式上の帰属者が単なる名義人に
過ぎずして、他にその終局的実質的享受者が存在する場合、そのいずれを所得の帰属
者として課税すべきであるかについて問題が生ずる。思うに、国家経費の財源である租
税は専ら担税能力に即応して負担せることが、税法の根本理念である負担公平の原理
に合し且つは社会正義の要請に適うものであると共に、租税徴収を且確保し実効あらし
める所以であって、各種税法はこの原則に基づいて組み立てられており、又これを指導
理念として解釈運用すべきものと云わねばならない」(1962年6月29日最高裁判所
第2小法廷判決 1959年(あ)第1220号)
として、最高裁において実質課税の原則は、各種税法の根本理念である負担公平の原理に合し且つは社会正義の要請に適うものとの判決がなされた。
第3 一審及び二審の判断が最高裁判例と相反する判断である点について
1 固定資産税の課税について二審判決は
「本件土地が、地方税法が固定資産税を課することができないと定める固定資産のい
ずれにも該当しない」(二審判決文9ページ2行目~同ページ4行目)
として適法と判断した。
しかし、この土地は、登記名義人らが個人的に使用しているものではなく、紀州鉱山で亡くなった朝鮮人を追悼する場として公益的に使用されていることは、追悼の場である土地に多くの人々が毎年集って追悼集会を開催している実態、韓国慶尚北道の道議会議員が公式な立場でこの土地へ追悼に訪れている事実などから明らかなことである。
そうであるのに、これらを無視して、単なる土地の形状を示す写真である証拠(乙5の1.2)を根拠にして、名義上の土地所有者に過ぎない申立人に対して課税したことや、追悼碑建立の土地の使用実態から離れて一般的な住居建築の宅地として課税したことは、実態からかけ離れた判断であり、実質課税の原則に反する。
2 相手方が、固定資産税の減免を認めないことについては、一審判決は、
「固定資産税の減免を許容できるような公益性が……認められない」(一審判決文19
ページ上から2行目~同ページ5行目)
として、相手方の減免不承認処分を適法とした。
また、同じく固定資産税の減免を認めない二審判決は、
「史跡英国人墓地の敷地部分が公有地であるとうかがわれることに照らすと、そもそも
その前提を異にするから、採用の限りではない」(二審判決9ページ下から5行目~同ペ
ージ下から4行目)
と、相手方の減免不承認処分を適法と判断した。
しかし、相手方が「史跡」とし「文化財」に指定している「英国人墓地」の敷地と強制連行され紀州鉱山で亡くなった朝鮮人を追悼する碑の敷地は、どちらも実質は、「追悼の場」であることにおいては異なるところがないのであるから、負担公平の原理と社会正義の要請において、亡くなった朝鮮人を追悼する碑の敷地は、減免措置が講じられて当然である。
それだけではなく、日本政府と地方自治体が関与してなされた強制連行によって紀州鉱山に連行され亡くなった朝鮮人を追悼することは、相手方らの責任であるのに、「前提を異にする」として、その責任を審理することなく、紀州鉱山の真実を明らかにする会が建立した追悼碑の土地に公益性を認めないで減免不承認処分を適法とした一審及び二審判決は、実質課税によって租税における負担公平の原理と社会正義の要請を基本とした最高裁判例に相反する。
第3 結論
一審及び第二審判決は、以上のように最高裁の判例と相反する判断であるから、民事訴訟法第318条第1項により申立てる。