南北朝時代の武将・楠木正成は鎌倉幕府に反抗したため関東では悪党扱いのようですが、関西では英雄です。各地に伝説や史跡が残っていて、いずれもクスノキがからんでいます。
たまたま通りがかった大阪の公園には楠木正成・正行の親子分かれの場という史跡があり、クスノキ林になっていました。また、正成が自害したという神戸の湊川神社も境内がクスノキだらけです。
宇治市の隣・八幡市にも、楠木正成が武運長久を祈願してクスノキを寄進し、その残り株で作った大黒天を安置したというお寺があります。
クスノキで作られた大黒天
楠木正成とクスノキの縁について、『太平記』には次のように書かれているそうです。
倒幕の謀議が発覚して都を追われた後醍醐天皇が、大きな木の南側に玉座(天皇が座る場所)があり、童子が現れて導いたという夢を見た。木に南と書くとクスノキになるので、後醍醐天皇がクスノキという名前の武将を探して楠木正成を呼び寄せた…。
歴史上の人物の姓と樹木を結びつけた史跡や伝説がこんなにたくさん残る例は珍しいのではないでしょうか。
ところで、大黒天のあるお寺は単伝寺と言いますが、「落書き寺」という名前の方が通っています。普通のお寺は落書き禁止ですが、この大黒堂の内壁は遠慮なく落書きできるのです。
もともと和尚もいない荒れ寺を多くの人が援助して復興したので、「せめてみんなの願い事を大黒さんによく見えるように、お堂の白壁に書いてもらおう」ということで始まった風習だそうです。
壁に書かれた願い事
落書きを見ると、合格祈願、恋愛成就、安産祈願など、要するに絵馬の代わりに壁に願い事が書いてあります。堂内には落書き用のマスが置いてあり、その範囲に書くようになっています。
落書き用のマス
年末に白く塗り替えるそうですが、私が訪れた1月下旬にはすでに半分くらいのスペースがうまっていたので、遠慮して落書きしませんでした。