私が広告業界に入った頃、サントリーがこんなCMを流していました。
雁は北から渡ってくるとき木の枝をくわえて飛び、疲れるとその枝を海に浮かべて止まって休む。青森県外ケ浜まで来ると、枝を捨ててさらに南へ渡る。そして、春になると再びその枝をくわえて北へ帰る。しかし、帰れなかった雁も多く、浜にはたくさんの枝が残る。この地方の人はその枝を集めて風呂を焚き、帰れなかった雁を供養する。
これが「雁風呂」の伝説。落語にもこの話があるそうで、「雁風呂」は春の季語にもなっています。
せつなさが漂う日本人好みの話ですが、バードウォッチャーでなくても、雁が木の枝をくわえて飛ぶことはありえないと分かるでしょう。全くの作り話で、青森県の人たちも「そんな説は聞いたことがない」と言っているそうです。
湖北で撮影したマガン
この話の出所は江戸時代の『採薬使記』という書物。「(前半略)他国にて多くの人の為に捕れたる雁の供養なる由、毎春の例とせり、これを俗に外ケ浜の雁風呂湯という」。
同じ書物に、これによく似た中国の話が載っているので、それをベースに作者が創作したのではないでしょうか。
ということは、サントリーのCMもその作り話に乗せられて、もっともらしくでっち上げたということになります。青森県のある公的機関のWebサイトによると、このCMが流れて以降、現地の人たちは観光客に「雁風呂」のことを聞かれて困ったそうです。
私もこの業界で長年仕事をしていますが、広告は時々こういう罪作りなことをしますね~。