樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

日本全国が奈良になる

2015年07月02日 | 森林保護
私のフィールド・栃の森はシカの食害で植生が大きく変化しています。20年前に比べると、ササなどの下草がほとんどなくなりました。
そして、オオバアサガラ、テツカエデ、トリカブト、バイケイソウなどシカが食べない植物がどんどん増えています。下の写真のように、以前は湿原だったところが、今はオオバアサガラの純林になりつつあります。


樹高約3mのオオバアサガラの若木に覆われた湿原

この樹の枝葉にはサポニンが含まれているのでシカは食べません。その忌避効果を利用してシカを締め出そうという研究を、東京農業大学と森林総合研究所が共同でやっています。
そのレポートのタイトルは、「シカ食害地で広葉樹林化を目指すには~オオバアサガラを用いた応急的対処戦略~」。分かりやすくチャート化すると、以下のような作戦です。
①シカの食害で下草がなくなった人工林にオオバアサガラの種を撒く
→②成長が早く、シカが食べないので林床部の植生が早期に回復する
→③土壌流出を防ぐと同時に、シカの数が減る
→④その後、オオバアサガラ以外の有用樹種を植えて広葉樹林化する
コストをかけずに人工林を広葉樹林化しようという狙いです。


先月撮ったオオバアサガラの幼木

まだ実験の結果が出ていないようですが、最近、栃の森ではこのオオバアサガラさえシカが食べています。研究レポートにも次のように書いてあります。
「近年、シカの生息密度がさらに高まり、シカの餌が不足してきたためか、オオバアサガラまで食べられるようになりました、しかし、オオバアサガラの場合、シカに芽や若い枝を食べられても枯れることは観察されておらず、食べられた個所から芽を出し、わずかな期間で緑を回復するといった現象が見られています」。
この「オオバアサガラ作戦」が成功するかどうか、ちょっと不安もあります。
下の動画は、栃の森ではなく京都市内の自然公園で撮ったもの。山や森だけでなく、最近は都市部にも出てくるようになりました。



聞くところによると、信州の高層湿原もシカ除けのネットで囲んだエリア以外は全滅状態とのこと。早く何とかしないと、日本全国が奈良のようになります。
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4 コメント

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Unknown (guitarbird)
2015-07-05 05:29:35
おはようございます
先日、エゾシカの食害が鳥にどう影響を与えているかを調べている大学院生と話す機会がありましたが、やはりヤブサメなどの笹薮で繁殖する鳥への影響があるようです。
私のホームフィールドのA公園とその周辺は街に近いためにまだエゾシカがたまに来るくらいですが、笹が多いし、エゾシカが樹皮を好んで食べるハルニレも多いし、エゾシカが来たら環境が変わるだろうな、と思います。
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北海道でも (fagus06)
2015-07-05 08:22:00
同じような状況なんですね。
栃の森ではササがなくなってウグイスが激減しました。ヤブサメも同様だと思います。
先日、知人に聞いた話では、記事に書いたように信州の高層湿原がひどいことになっているようです。
シカにはシカの都合があるのでしょうが、困ったものです。
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高野川でも (tidori)
2015-07-05 11:39:59
この頃は高野川はもちろんのこと、鴨川でもシカはそう珍しくなくなりました。
この数日前まで高野川蓼倉橋辺りにシカの親子が5頭しばらくいたようです。
見に行こうと思っているうちにいなくなりましたが、狭い川沿いの道まで子鹿は上がって来て、犬の方が警戒したようですよ。
川の中の草はどんどん食べてほしいとは思いますがね~。
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そうですか (fagus06)
2015-07-06 07:48:41
鴨川でも珍しくないくらいになっていますか。
動画のシカは宝ヶ池公園で撮影したものですが、いよいよ京都も奈良みたいになりますね。
ヒツジに草を食べさせて除草するという方法が話題になりましたが、シカを使うという方法も考えられますね。
でも、そうすると、奈良みたいにアセビばかりが残るということになるかも知れません。
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