樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

桐箱

2012年01月19日 | 木の材

日本ではタンスを一棹、二棹と数えます。これにはおもしろい由来があります。タンスが普及する以前の江戸時代は、長持の下に車をつけた「車長持」が一般的でした。火事になるとそのまま運び出せるからです。

ところが、明暦の大火で誰もが車長持を引っぱり出したために、路地が塞がって大惨事が発生。幕府は、江戸、大阪、京都の三都で車長持の製造を禁止しました。その後、タンスが普及しはじめ、火事の際には棹を通して持ち運べるタイプが主流になり、一棹、二棹と数えるようになったそうです。

タンスと言えば、材はキリ。私の推測ですが、棹を通して持ち運ぶ以前の長持やタンスはスギやケヤキ製だったと思います。正倉院の長持もスギです。人間が持ち運ぶことになって、軽いキリ材に切り替えられたのではないでしょうか。

キリは日本の木材で最も軽く、比重は0.20.4くらい。燃えにくいという特性は、2次的なものだったのでしょう。

キリはタンス以外にも、大切な掛軸とか陶磁器を保管する箱にも使われます。わが家にも、桐箱に入った由緒のありそうな焼物が1個だけあります。

 

 

 

白州正子は『木』というエッセイ集で、明治時代に茶道具など国宝級の作品を持ち出した欧米人は桐箱を無用と見なして全て焼いてしまった、と書いています。西洋には木の箱に入れて保管するという習慣がないのでしょうか。

キリには軽い、燃えにくいに加えて、収縮しにくいという特性があります。これによって隙間のない箱を作ることができるので、内部は外気の温度や湿度の変化を受けにくいそうです。

物を保存するには湿度を一定に保つことが大切だそうですが、軽い木材ほど調湿性(湿気を吸ったり吐いたりして湿度を一定に保つ作用)が高いので、貴重な物を保存する箱にはキリが最適なわけです。

欧米人もそのことにようやく気づいて、例えばボストン美術館は作品を保管する桐箱を京都の指物師に大量に発注しているそうです。

 

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4 コメント

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桐は燃えにくい? (ichi)
2012-01-19 14:38:56
 桐の木は燃えにくい、と一般にいわれていますが、そんなことはありません。むしろ良く燃える材です。小生の工房ではストーブを炊いていますが、桐の端材は火がつきやすく焚き付けにはもってこいです。
 では、なぜ桐の箪笥が燃えにくいといわれているかと言うと、おそらく、桐の材は密度が低いために空洞が多く熱を伝えにくい、また、収縮が少ないので熱による乾燥等で割れたりし難い。そのため周りは焦げても中の温度が上がらず、火が入るのに少し時間がかかる。というようなことではないかと思います。それがいつの間にか「桐の木は燃えにくい」と言うことになってしまったのではないかと思います。あくまで推論ですが・・・。
もちろん保存用の箱として桐が最適なのはfagusさんの書かれているとおりです。
 もう一つ・・・・言いにくいのですが・・・・写真の箱は桐ではありません。おそらく樅の箱だと思います。
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キリは (fagus06)
2012-01-20 07:15:00
木材単体としては燃えやすいけれど、箱状になると中のものが燃えにくい、ということですね。私も多分そういうことだろうなと推測していました。
画像の箱はやはりそうですか。私もキリにしては年輪があるし、ヘンだなと思っていましたが、手に持つといやに軽かったので、やっぱりキリかなと思い込んでしまいました。
でも、画像はこのままにしておきます。
モミでもこういう保存箱を作るんですね。
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Unknown (guitarbird)
2012-01-20 19:01:57
こんばんわ
桐は近所で数軒植えている家があるのでこちらでも桐を植えるという慣習が一部で引き継がれたのかなと思いました。
うちのたんすは桐なのか、分からないですがそうだといいなと思いながら見ています。
白州正子のその本は読んでみようとずっと思っている1冊ですがやっぱりすぐに読みたくなりました(笑)。
木の箱は大切にしたいですね。
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こちらでも (fagus06)
2012-01-21 07:42:11
時々、キリを植えている家がありますが、昔の風習を受け継いでのことなのか、単に植木として植えたのかは分かりません。
多分、そういうキリの実を鳥が運ぶのでしょうが、道路脇のあちこちにキリの幼木が生えて、大きな葉を伸ばしています。
白州正子の「木」は以前にも読みましたが、いろいろ面白い話が書いてあります。セレブならではの経験とか…。
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