樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

鳥の歯

2016年03月03日 | 野鳥
江戸時代の画家・伊藤若冲(じゃくちゅう)はニワトリの写実的な絵で知られています。自宅にニワトリを飼ってスケッチを繰り返し、細部に至るまで精緻に描いたそうです。
その一方、ニワトリ以外の鳥は実物を観察して描いたわけではないようです。例えば、下のタンチョウは首の前部分だけを黒く描いていますが、実物は首のほぼ全部が黒です。



さらに不自然なことに、歯が描いてあります。バードウォッチャーには自明ですが、鳥に歯はありません。若冲は先達の絵や図譜(当時の図鑑)を参考にしながら想像で描いたのでしょう。
だからといって、作品の価値が下がるわけではありません。写実的か否かではなく、鬼気迫る筆力が若冲の絵の魅力。鳳凰も描いていますが、写実ではないのに、真に迫る圧倒的なパワーがあります。
鳥に歯はありませんが、ハシビロガモのクチバシには歯のようなものがあります。下は知人の羽根コレクターが採取した標本。細かいブラシのようなものがあります。



これは噛むためではなく、水中の餌(プランクトンなど)を濾し取るためのもの。ハシビロガモはクチバシを開けて泳ぎながら水を取り入れ、餌だけをこのブラシで濾し取ります。下の動画はハシビロガモの採餌シーン。



鳥は歯の代わりに内臓にある砂嚢(さのう・砂が入った袋)で咀嚼します。焼き鳥の「砂ずり」はニワトリの砂嚢。肉食系の鳥も草食系の鳥も餌を丸飲みして砂嚢で咀嚼し、消化できない骨や種は吐き出すか糞として排出します。
ただ、鳥の先祖である始祖鳥には歯があるそうです。他の動物と鳥の分かれ目は歯の有無と言えるかも知れませんね。
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2 コメント

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Unknown (guitarbird)
2016-03-09 11:47:37
こんばんわ
ハシビロガモのそれは知りませんでした。
観察していて見えないでしょうし、写真が撮れるにしてもよほどの偶然に恵まれないと無理そうですね。
そう考えると骨格標本や剥製は非常に勉強になるものですね。
そしてハシビロガモは鯨のヒゲクジラ類の口の中と同じなんですね。
そろそろまたハシビロガモが見たくなってきました。
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私も (fagus06)
2016-03-10 07:57:11
この標本を見るまでは、ほとんど理解していませんでした。図鑑に書いてある「餌を濾し取る」という説明が納得できますね。
双眼鏡やスコープの観察では無理でしょう。
伊藤若冲のタンチョウの絵に歯が描いてあることは『野鳥』誌で知りました。
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