センダンの花が満開です。この樹は河川敷や荒れ地に雨後の筍のように生えるので、ちょっと困った厄介者ですが、小さな薄紫色の花を見ると、逆に可憐で、優しい印象を持ちます。
博物学者であり生物学者であり民俗学者、ひと言でいうと“知の巨人”南方熊楠(みなかたくまぐす)は、このセンダンの花が好きだったようです。
センダンの花
長女の南方文枝さんが次のように書いています。
医師が時々打つ注射を嫌い、「こうして目を閉じていると、天井一面に綺麗な紫の花が咲いていて、からだも軽くなり、実にいい気持ちなのに、医師が来て腕がチクリとすると、忽(たちま)ち折角咲いた花がみんな消え失せてしまう。どうか天井の花を、いつまでも消さないように、医師を呼ばないでおくれ」と言いつけた。
父は紫色を好み、庭の草花も紫色が多かった。昭和4年6月1日、御召艦長門において御進講の栄光に浴せし日、あたかも父の門出を祝福するかのごとく、庭の樗(おうち=センダン)の花が薄紫の霞のごとく咲き誇っていた。今幽明の境を彷徨する父の脳裏にあの日の感激と、見事に咲いた樗の花を想い出したのであろうか、父の寝顔は実にやすらかであった。
熊楠が亡くなったのは12月29日なので、センダンの花は咲いていません。庭に植えたセンダンが満開になったシーンが脳裏に焼き付いていて、薄紫の花の霞の中を通り抜けて天国に昇っていったのでしょう。
私があの世に行くとき、天井一面に咲くのは何の花だろう? わが家の庭に咲くエゴノキの花かな? 栃の森で見るトチノキの花かな?
博物学者であり生物学者であり民俗学者、ひと言でいうと“知の巨人”南方熊楠(みなかたくまぐす)は、このセンダンの花が好きだったようです。
センダンの花
長女の南方文枝さんが次のように書いています。
医師が時々打つ注射を嫌い、「こうして目を閉じていると、天井一面に綺麗な紫の花が咲いていて、からだも軽くなり、実にいい気持ちなのに、医師が来て腕がチクリとすると、忽(たちま)ち折角咲いた花がみんな消え失せてしまう。どうか天井の花を、いつまでも消さないように、医師を呼ばないでおくれ」と言いつけた。
父は紫色を好み、庭の草花も紫色が多かった。昭和4年6月1日、御召艦長門において御進講の栄光に浴せし日、あたかも父の門出を祝福するかのごとく、庭の樗(おうち=センダン)の花が薄紫の霞のごとく咲き誇っていた。今幽明の境を彷徨する父の脳裏にあの日の感激と、見事に咲いた樗の花を想い出したのであろうか、父の寝顔は実にやすらかであった。
熊楠が亡くなったのは12月29日なので、センダンの花は咲いていません。庭に植えたセンダンが満開になったシーンが脳裏に焼き付いていて、薄紫の花の霞の中を通り抜けて天国に昇っていったのでしょう。
私があの世に行くとき、天井一面に咲くのは何の花だろう? わが家の庭に咲くエゴノキの花かな? 栃の森で見るトチノキの花かな?