樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

クロツグミの声

2015年05月14日 | 野鳥
夏鳥のクロツグミが渡ってきて、あちこちの山でさえずっています。その声は多彩で明るく、賑やかです。
「日本三鳴鳥」はウグイス、コマドリ、オオルリとされていますが、「オオルリよりもクロツグミの声の方が美しい」と言うバーダーがいて、私も同感です。
下の動画は一昨年の今ごろ、福井県で撮ったクロツグミ。同じ場所でずーっとさえずっていました。



このクロツグミの声を、私とは逆に寂しいと感じた詩人がいます。以下は「クロツグミ」と題する高村光太郎の短詩。

クロツグミなにしやべる。
畑の向うの森でいちにちなにしやべる。
ちよびちよびちよびちよび、
ぴいひよう、ぴいひよう、
こつちおいで、こつちおいでこつちおいで、
こひしいよう、こひしいよう、
びい。
おや、さうなんか、クロツグミ。


高村光太郎は優れた彫刻作品や詩を残しましたが、戦争賛美の詩を書いたことから戦後は自責の念に駆られ、岩手県の山中に隠遁して7年間独居生活をします。その中で作られたのがこの「クロツグミ」。
この作品について、詩人であり詩の研究家でもある伊藤信吉は以下のように書いています。

いかに自己処罰であっても、たった一人の山小屋暮らしは孤独そのものである……そういう精神的孤独の人の耳に、黒ツグミの鳴きごえがきこえる。自分がその黒ツグミなんだ。「こひしいよう、こひしいよう」は、同時に「さびしいよう、さびしいよう」に他ならなかったのである。

同じ鳥の声でも、聞く人の境遇や精神状態によって、明るく楽しい声に聞こえたり、寂しく物悲しい声に聞こえたりするということですね。
光太郎の心境を想像しながら上の動画の声を聞くと、確かに胸が締め付けられるような寂しい声に聞こえます。
コメント (2)
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