樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

野鳥の季語

2014年03月13日 | 野鳥
しばらく前、「鷹の季節感」「鷲の季節感」と題して、野鳥の季語に疑問を呈しました。その後さらに調べると、俳句界の鳥の歳時記はデタラメであることが分かりました。
例えば、カワセミは夏の、シジュウカラやメジロ、キツツキは秋の、カイツブリは冬の季語になっています。バードウォッチャーから見れば「何じゃ、こりゃ?」状態。


カワセミは夏だけでなく1年中見られます(12月に撮影・左♀右♂)

さらに詳しく調べると、面白い事実が浮かび上がってきました。私と同じく「鳥の歳時記がおかしい」と思った俳人がいたのです。
昭和初期から活躍し、1962年に俳人協会会長に就いた水原秋桜子(しゅうおうし)。名前だけしか知りませんが、この俳句界の大物が当時の俳壇について次のように記しています。
「昭和のはじめまでは、俳句作者で、時鳥(ホトトギス)の声を聞き知っている人は非常に少なかったものです。山だの高原だのへ出ていって、自然をよく観察することをせず、句会の席上で題詠ばかりしていたからであります。(中略)これではだめだというので、四、五人の友達と共に、中西悟堂(「日本野鳥の会」創設者)さんについて、野鳥の勉強をすることになりました」。
その後、別のところで以下のように書いています。
「こうして探鳥行を重ねるに従って考えついたのは、野鳥に関するいままでの歳時記が非常に不備だということであった。不備ばかりではない。そこにはかなり大きな誤謬さえも発見することが出来た」。


秋の季語シジュウカラも1年中見られます(1月に撮影)

こうした経緯から、秋桜子は『野鳥歳時記』の発行を思い立ちます。執筆を任されたのは、山谷春潮。俳句では秋桜子の弟子、野鳥観察では悟堂の弟子(=日本野鳥の会会員)という最適の人材です。
1962年に発行されたこの『野鳥歳時記』は角川文庫からも出版されています。その前文を読むと、それまでの歳時記がいかに杜撰であったかが分かります。
例えば、クロツグミやオオルリ、サンコウチョウなど多くの夏鳥が秋の季語になっていました。また、前述のように留鳥の多くが秋に分類されていました。
春湖は、夏鳥は夏の季語に配置転換し、留鳥は従来の歳時記にはない「無季の鳥」というカテゴリーを設けて包括しています。
一方、野鳥を季節ごとに振り分ける難しさもにじみ出ています。
例えば、カシラダカ、シロハラ、ツグミなどは渡りを主として考える場合は秋で、それが平地へ降りるときは冬だから、まず秋の中に含め、冬は冬の字を冠して使用する。シギ、チドリなどの旅鳥は秋と春2回通過するので、まず秋に入れ、春の場合は「引鳥(北へ帰る鳥)」のカテゴリーに入れる、などとなっています。
しかし、残念なことに、この『野鳥歳時記』は現代の俳句界であまり普及していないようで、図書館で数冊の俳句歳時記を紐解きましたが、相変わらずメジロやシジュウカラが秋の季語になっています。
キクイタダキは「菊戴き」と書けば菊は秋だから秋の季語、「松むしり」という別名なら春の季語というご都合主義の歳時記もあります。
失礼ながら、鳥に関する限り、俳人の季節感はいい加減なものなんですね~。
コメント (4)
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