高村光太郎の詩集『智恵子抄』の中に「千鳥と遊ぶ智恵子」という1篇があります。
人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の
砂にすわつて智恵子は遊ぶ。
無数の友だちが智恵子の名をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
砂に小さな趾(あし)あとをつけて
千鳥が智恵子に寄つて来る。
「千鳥」と言えば、私はコチドリを想起します。今の時期、近くの干拓田に行くと、必ずその可愛い姿を見せ、チョコマカと動いて微笑ませてくれます。
でも、この詩の舞台は海岸なので、内陸性のコチドリではないはず。「では、どんなチドリだったのだろう?」と気になって、私なりに推測してみました。
海岸の砂浜で群れを作るチドリと言えば、シロチドリ、ハマシギ、トウネンあたり。詩の中に「両手の貝を千鳥がねだる。智恵子はそれをぱらぱら投げる。」という一節があって、この3種は主に貝を食べるので、この点でも矛盾しません。
次に、「ちい、ちい」という鳴き声を手がかりに、手元にある鳥のCDを聴き比べて候補を絞りました。シロチドリとハマシギは「ちい、ちい」というよりも「ぴい、ぴい」。「ちい、ちい」に近いのはトウネンです。よって、智恵子が遊んだのはトウネンであると結論づけました。
トウネンは海岸だけでなく内陸にもやってくるので、近くの干拓田でも見られます。少数ですがここでも群れていることが多いです。
詩は以下のように続きます。
群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
シギやチドリの声には哀愁があるので、心を病んでいる智恵子のこのせつない姿が余計に物悲しく見えます。
文芸作品の中から動植物の種を同定するのは楽しいし頭が活性化されますよね、音楽でもそうですし。
それにしてもシギチまっしぐらですね(笑)。
私はチドリはコチドリしか見たことがないです。
もうすぐ、タカの渡りを撮り始めます。
文芸作品から種類を推測するのは、勝手な思い込みですが、面白いですね。
また、試みます。
トウネン説はあくまでも私の推測です。以下のサイトでトウネンの声が聴けますので、参考までに聴いてみてください。
http://uns.music.coocan.jp/toriMizubeSWF/tonen.html