樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

ミツマタ

2012年04月16日 | 木と歴史
少し前になりますが、散歩コースの花寺でミツマタの花が満開でした。
この木は中国原産で、紙の材料として日本に移入されたようです。英名はOriental Paper Bush、「東洋の紙の低木」。和紙にはこのミツマタのほか、コウゾやガンピも使われています。


名前の通り枝が三本に分かれています

洋紙の耐用性が100年程度であるのに対し、和紙は1000年以上持つとか。実際に、正倉院に最古の和紙である戸籍が残っていて、そこには大宝2年(702)と記されているそうです。
長持ちする理由は繊維の長さ。洋紙の原料であるパルプの繊維は、針葉樹で平均2.2ミリ、広葉樹で1.02ミリ。一方、ミツマタの繊維は3.2ミリ、ガンピは5.0ミリ、コウゾは7.3ミリ。繊維が長いと絡む部分が多いので、それだけ強い紙になるそうです。
ちなみに、世界最古の紙は中国の甘粛省で出土した地図で、紀元前150年頃のものらしいです。その素材も多分ミツマタでしょう。東洋の紙は2000年以上の耐用性があるということですね。
日本の紙幣には和紙が使われていますが、それを印刷している国立印刷局の周囲にはミツマタが植えてあるそうです。
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里帰り桜

2012年04月09日 | 木と歴史
日本からアメリカのワシントンに桜の苗木が贈られて今年でちょうど100年。テレビでも報道されましたが、現地では100周年記念の大々的な「桜祭り」が行われ、日本からAKB48も参加したとか。
贈られた苗木は、穂木は東京の荒川堤の桜並木から取り、台木は植木の産地として高い園芸技術を持っていた兵庫県伊丹市の東野村で作られたそうです。
ポトマック河畔の桜並木が世界的な名所になったため、それを感謝して、苗木贈呈90周年の際に全米州議会が、ワシントンの桜から採取した苗木を日本に贈りました。
そのうちの何本かが伊丹市の公園にあると知って、先週の金曜日に行ってきました。あいにく小雨模様で、花もまだ1分咲き程度。


桜の下には「日米友好の桜」という説明看板が立っています

伊丹市では「里帰り桜」と呼ばれて市民に親しまれているようです。また、今年は「日米友好の桜100周年記念」のさまざまなイベントが行われました。
そもそも「アメリカに桜を」という声は、来日経験のある学者や作家から上ったようです。日本の桜の美しさに感動し、何とかアメリカに移植したいという声が高まり、当時のタフト大統領夫人が運動を先導して実現したという経緯があります。
伊丹の東野村に発注された台木の数は1万5千本。その中からソメイヨシノ1800本をはじめ、12品種のサクラ約3000本が選別され、1912年 2月14日に横浜を出て、3月27日にワシントンに到着しました。


僅かに開花した「里帰り桜」

以前にもご紹介しましたが、その桜の返礼としてアメリカから贈られたのがアメリカハナミズキ。戦争中に「敵国の木」という理由で多くは伐られたようですが、その後の追跡調査で数本の原木が残っていることが判明しています。

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タイムカプセルの木

2012年02月16日 | 木と歴史

1970年に開催された大阪万博を記念して、大阪城公園にタイムカプセルが埋設されました。5000年後の世界に当時の日本の生活や文化、科学を伝えるために2000点以上の品々を収納したそうです。

埋設30年後の20003月、保存状態を調べるために試験開封された際、中に入っていた樹木の種を取り出して発芽試験が行われました。

その樹種と種の数は、スギ100粒、ヒノキ41粒、アカマツ96粒、トドマツ51粒。それらを森林総合研究所が発芽させ、最終的にヒノキ1本、アカマツ13本、トドマツ4本の苗木に育てました。

その木の一部が、近くの森林総研関西支所に植えてあります。

 

 

タイムカプセルの木の一つ、ヒノキ。樹高は約2.5m

 

アカマツ13本はこのプロジェクトを主催した毎日新聞大阪本社と松下電器産業(現パナソニック)本社に3本ずつ、そして万博記念公園にも3本植樹されました。

森林総研の植物園にもアカマツが3本植えてあります。うち1本は主幹が伐られていますが、他の2本は5mくらいまで元気に育っています。

 

 

タイムカプセルのアカマツ

 

計画では2100年にタイムカプセルを再度開封するそうですが、その頃には現在関わっている人たちはいないわけで、その経緯を知っているのはこれらの樹木だけということになります。

2100年を想像するのさえ難しいのに、5000年先の未来に現在の姿を伝えようという何とも壮大なプロジェクトですね。

 

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白梅紅梅

2011年03月31日 | 木と歴史

少し時期はずれになりましたが、梅のお話です。

桜はいろんな種類が日本に自生しますが、梅は中国から移入されたというのが定説です。時期は8世紀中頃と推測されています。

その根拠は、『古事記』『日本書紀』『風土記』など古い書物には梅の記述がなく、『万葉集』の3巻以降にようやく登場するからとのこと。しかも、3巻以降では117首も詠まれ、植物としては萩に次いで多いそうです。

デビューしていきなりトップ3入りしたヒット曲みたいなものですね。

 

 

もう一つの根拠は、たくさんの歌を残している柿本人麻呂が梅を一首も詠んでいないこと。人麻呂は7世紀末~8世紀初頭に活躍した歌人です。

当時、梅は貴族だけが愛でた樹木で、庶民には高嶺の花だったようです。117首も詠まれているのに、庶民の歌「施頭歌」や東国で詠まれた「東歌」には登場しないらしいです。

また、『万葉集』には白梅しか出てこないそうですが、清少納言が『枕草子』に「木の花は 梅の 濃きも薄きも 紅梅」と書いているので、平安時代には紅梅があったことになります。

 

清少納言好みの紅梅

 

最初に中国から白梅が移入され、その後に品種改良で紅梅がつくられた、あるいは新たに中国から紅梅が持ち込まれたということでしょう。

私はどちらかというと、清少納言と同じく紅梅の方に心惹かれます。

写真は、宇治市近くの梅の名所・青谷の「梅まつり」で撮ってきました。

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石器時代の道具

2011年03月10日 | 木と歴史

近くにある京都大学宇治キャンパスで「木の文化と科学」という、私にとっては「猫にマタタビ」みたいなシンポジウムがシリーズで開催されています。これまでにも何度か参加してこのブログでも紹介しました。先日その第10回が開催されたので行ってきました。

3つの講演の中で特に興味深かったのは、遺跡から出土する木製品から当時の文化を推測するというもの。例えば、割れた丸太と一緒に木製のクサビと木槌が出土するので、弥生時代はクサビを使って丸太を割っていたことが分かります。下はその復元写真。

 

 

当時はノコギリがありませんから、こうやって板をつくったわけです。しかもクサビは、今のカッターナイフみたいに、刃先がダメになったら折って次のを使えるように、4個連続したものが作られていたそうです。

OLFA2000年前にすでに発明されていたわけです。弥生人の知恵、恐るべし!

 

 クサビの復元模型。これが4個連結したものが出土

 

下は出土品を元に復元された石斧。立木を伐採する時にはこれを使うわけです。形も大きさも野球のバットのようですが、スイートスポットあたりに穴が開けられ石の刃が組み込まれています。柄はクサビと同じくカシ(アカガシ)。

 

 手に持つとズッシリ重い

 

クサビも木槌も石斧の柄も、さらに割れた丸太もほとんどがカシ。弥生時代はカシの木製品が多く、古墳時代→古代と進化するにつれてスギが多くなるという話でした。

カシからスギに変わった理由の一つは鉄器の登場。石器では加工しにくい針葉樹も、鉄器なら加工しやすいのでスギやヒノキが使われるようになったらしいです。針葉樹は柔らかいので石器ではボンボン跳ね返って伐採しにくい一方、鉄器なら針葉樹も加工しやすいそうです。

このほか出土木材の保存方法や、遺跡出土木材研究の権威である東北大学の教授の講演もありました。どちらも面白かったですが、少し専門的で、私にとっては「猫にマタタビ」と言うよりも、「猫に小判」だったかな?

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日本初のサルスベリ

2010年08月23日 | 木と歴史
夏の花木のベスト3は、キョウチクトウ、ムクゲ、サルスベリでしょうか。いずれも花期が長く、原産が外国(キョウチクトウはインド、ムクゲとサルスベリは中国)という共通点があります。
今年の5月、そのサルスベリの渡来時期に関して従来の説を覆す証拠が宇治市で発見されました。
平等院境内の池を調査したところ、940年頃の地層からサルスベリの花粉が発見されたのです。これまで、サルスベリは江戸時代初期に中国から移入されたと言われていましたが、それよりも600年以上前の平安時代中期にすでに植えられていたわけです。


平等院鳳凰堂の池の横にあるサルスベリ

調査したのは京都府立大学の森林科学の教授。花粉の年代は放射性炭素法で測定したそうです。
池の南側には現在もサルスベリの老木がありますが、サルスベリの花粉の飛散距離は数百メートルであることから、当時の系統を受け継いでいる可能性もあるとか。もしそうなら、日本初のサルスベリの子孫に当たるわけです。


日本初(?)のサルスベリの花

平等院はもともと藤原道長の別荘ですから、権力にモノを言わせて中国の珍しい樹木を植えたことは十分に考えられます。私の推測ですが、サルスベリは別名「百日紅」と呼ばれるほど花期が長いので、藤原家の長期繁栄の願いを託して庭に植えたのではないでしょうか。
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古代の里山

2010年08月19日 | 木と歴史
奈良県御所市で弥生時代前期(約2400年前)の埋没林が発掘され、その現地説明会が8月7日に行われました。
宇治から電車を乗り継いで2時間はいいとして、炎天下、最寄り駅から徒歩40分というアクセスに一瞬ひるみました。しかし、約200本の樹木がほぼ当時のまま発掘され、うち186本の樹種が同定されたと知り、二度とない機会なので覚悟を決めて足を運びました。
発掘されたのは3000㎡の森と1700㎡の水田。洪水による厚さ1~1.5mの土砂で真空パックされたため、当時の状態のまま残ったそうです。


手前が水田、向こうが森


森のゾーン

森ゾーンには黒く変色した樹木がニョキニョキと生えています。土砂より上の部分は枯れたり腐ったりして消滅し、埋まった部分だけが残ったわけです。倒木は長いまま残っています。
最も多い樹はヤマグワで44本、以下ツバキ(39本)、カエデ(21本)、イヌガヤ(12本)と続きます。ヤマグワは器に、ツバキは杵に、イヌガヤは弓に利用しただろうと推測されています。


カエデ


クリの倒木。乾燥して劣化しないように散水中

オニグルミは樹だけでなく、人為的に割られた殻も発見されており、食糧として利用していたようです。トチノキもありました。現在ではもっと標高の高い所で自生する樹ですが、当時はもう少し冷涼な気候だったのでしょう。


トチノキ

驚くべきことに、人や動物の足跡まで残っています。面白いのは、ヤマグワの周囲を歩いた人の足跡。洪水の直前に、木を切るとか実を採るために物色したのでしょう。2400年前の人間の生活が目に浮かぶようです。


ヤマグワの周囲を歩いた人の足跡


動物(イノシシ?)の足跡

もう一つ特記すべきは、エノキの伐採痕。焦げ目があるので、樹の繊維を焼き切りながら石斧で伐採したのではないかと言われています。
石斧を使って古代の伐採を再現した学者によると、針葉樹は柔らかいので伐採しやすいと思われたものの、石斧がボンボン跳ね返るので、硬い広葉樹の方が伐採しやすいそうです。その智恵に加えて、弥生人は焼きながら切るという技を持っていたわけです。


焦げ目のあるエノキの伐採痕

こんなアクセスの悪い場所に来る人は少ないだろうとタカをくくっていましたが、最寄りの駅では30人以上が降りてゾロゾロと歩き始め、会場には100人以上が集まっていました。私も物好きですが、考古学ファンにも物好きな人が多いですね~(笑)。
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木のライフライン

2009年09月21日 | 木と歴史
以前、宇治で発掘された平安時代の木組みの井戸をご紹介しましたが、宇治市の隣の久御山町ではもっと古い弥生中期の井戸が発掘されています。約2000年前のもので、日本最古級。

       
           (久御山町庁舎に展示されている木組み井戸)

宇治の井戸はヒノキ製。久御山の井戸は樹種が明示してありませんが、おそらくヒノキかコウヤマキでしょう。どちらも水に強い樹種です。

       
             (宇治で発掘された平安時代の井戸)

ちなみに、下の写真は奈良文化財研究所の資料館に展示してあるコウヤマキの樋。今で言えば水道管でしょうか。当時は身近な材料としては木や土しかありませんから、当然ながらライフラインも木だったわけです。

             
          (平城宮の水道管。黒く見えるところは空洞)

ところが意外なことに、近代以降もライフラインに木が使われていました。日本初の横浜の近代水道ではイギリスから輸入した鉄管を使いましたが、その後の各地の水道工事では鉄管と木管が併用されたようで、木管専門の国内メーカーもあり、丸太をくり抜いたタイプと桶のように板を組み合わせたタイプの2種類の水道管を昭和初期まで作っていたそうです。
昭和44年に東京の水道工事で当時の水道管が発掘されましたが、材質はヒノキで内径は15cmだったとか。アメリカでも木の水道管を使っていたらしく、1500マイル(2400km)も敷設したという記録が残っています。
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火の木

2009年08月03日 | 木と歴史
古代人のように木で火を起こそうという面白いイベントがあったので参加してきました。
講師は自ら「野人」と名乗り、「火起師(ひおこし)」という聞き慣れない肩書きを持つ大西琢也さん。北米、アフリカ、ヨーロッパの各大陸最高峰で火を起こしたり、「国際火起こしコンクール」で13秒という記録で優勝するなど珍しい経歴を持っています。

       
         (道具は上から火錐杵、火錐臼、木屑を受ける枯葉)

一般的に「火を起こす木だからヒノキ」と言われます。しかし、古代の「はひふへほ」の発音には2通りあり、「火」はFi、「檜」はHiで両者に共通性はない、という言語学者の説に私は納得しています。
そのことを大西さんに確かめたら、実際に使うのはヒノキではなくスギで、遺跡から発掘される火錐臼(ひきりうす)もスギやタブノキが多いそうです。
一方、火錐杵(ひきりきね)はキブシ、ウツギ、アジサイの3種類。錐のように回転させるので真っ直ぐな枝が必要だそうです。遺跡からはクルミやシノダケなどその地域で入手できる杵が発掘されるとのこと。

       
               (大西さんが使う火錐杵は3種類)

座学の後、大西さんの実演を見てから、参加者が4人ずつのグループに分かれてチャレンジしました。手順は、臼の溝で杵を回転させて木屑を作る → 摩擦熱で木屑に火種が生れる → 火種を麻の繊維にくるむ → 息を吹きかけて火を大きくする → 麻の繊維を手で振り回して発火させるというもの。

       
       (杵を錐のように回転させると煙が出ます。ここまでは簡単)

しかし、実際にやってみるとそう簡単ではなく、4人で何度も交替しながら杵を回すものの、煙は出るのになかなか火になりません。20分くらい続けてようやく火起こしに成功。中には30分以上やっても発火できないグループもありました。

       
           (枯葉に受けた木屑の火種を麻の繊維で包む)

大西さんによると木で火を起こすのは世界共通で、ミクロネシアのように年輪のない木がある地域では、回転させるのではなく前後にこすりつけて発火させるそうです。年輪が引っ掛からないので、そんな方法が可能なのでしょう。樹種によって発火方法が異なるというのは興味深いことでした。

       
                (生れて初めて木で起こした火)

60年生きてきて、木で火を起こしたのは初めて。古代人になったようで、なかなか感動的でした。
大西琢也さんのウェブサイトはこちら
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木の狛犬

2009年07月13日 | 木と歴史
家の近くに、宇治神社と宇治上(うじがみ)神社という同じような名前の神社が隣り合って建っています。宇治神社は国の重要文化財、宇治上神社は国宝で世界遺産。

       
                    (宇治神社)

この宇治神社には、珍しい木製の狛犬があります。と言っても、屋外に設置したままでは痛むので、現在は宇治市歴史博物館に保存され、修理も加えられています。その修理がようやく完了し、一般公開されているというので、しばらく前に見てきました。

             
        (ガラスケースで見にくいですが阿形(あぎょう)像)

この狛犬は鎌倉時代に制作されたもので、ヒノキの一木造りだそうです。現存する木造の狛犬では最大級に属し、口を開けた阿形(あぎょう)像は約81cm、口を閉じた吽形(うんぎょう)像は88cm。特に阿形像の出来がすばらしく、格調高い顔つきで、たてがみの先端部の微妙なそよぎまで写実的に表現されているとか。

             
              (こちらは吽形(うんぎょう)像)

歴史博物館に保存されたのは1987年。それまでの約700年間は境内で野ざらしだったたわけで、修理が必要なくらい痛んだとは言え、よくぞ風化もせず原型をとどめていたものだと驚きます。
恐るべし、ヒノキの耐久力!
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