2019年07月29日 中国新聞文芸欄「中国詩壇」掲載
その日は五月晴れの爽やかな日和だった
川沿いの遊歩道で初めて出会う人と立ち話
突然、話題が変わった
親戚の若い者が原発事故で避難している
自分は被爆者なので心の底から心配している
臭いも色も形もないその怖さは続くと話し
「避難でなくこちらへ疎開して来い」と勧めた
しばらくして「世話になる」と返事が来た
日増しに深刻化する状況が
若い者に疎開を決意させた
住み慣れた土地を離れることの悩み
子どものために疎開し
大きく変わる生活への心配と不安
若いなりに真剣に考えて答えを出した
そのことを嬉しくも頼もしくも思っている
いま、この人の話を聞くことも
被災地支援のひとつと思い
縁石に腰をおろして聞いた
あの会話から八年が過ぎた
除染土入りの積み重ねた黒い袋の山
今も何万人もいる避難者
継続している行方不明者の捜索
でも映像の多くはテープカットばかり
それらを見ながら思う
いつの日に故郷は被曝前に戻るのか
いつの日に安心して帰還できるのか、と
「評」 支援とは、なによりも被災者の気持ちに寄り添うこと。この人の話を聞くことも被災地支援という言葉が印象深い。爽やかな散歩の時間にふいに暗い影が差した。あの黒い袋がなくなるのはいつだろう。見えないふりをして、華やかな光景をテレビで映しても、本当の解決ではないはずなのに。(選者・野本 京子)
その日は五月晴れの爽やかな日和だった
川沿いの遊歩道で初めて出会う人と立ち話
突然、話題が変わった
親戚の若い者が原発事故で避難している
自分は被爆者なので心の底から心配している
臭いも色も形もないその怖さは続くと話し
「避難でなくこちらへ疎開して来い」と勧めた
しばらくして「世話になる」と返事が来た
日増しに深刻化する状況が
若い者に疎開を決意させた
住み慣れた土地を離れることの悩み
子どものために疎開し
大きく変わる生活への心配と不安
若いなりに真剣に考えて答えを出した
そのことを嬉しくも頼もしくも思っている
いま、この人の話を聞くことも
被災地支援のひとつと思い
縁石に腰をおろして聞いた
あの会話から八年が過ぎた
除染土入りの積み重ねた黒い袋の山
今も何万人もいる避難者
継続している行方不明者の捜索
でも映像の多くはテープカットばかり
それらを見ながら思う
いつの日に故郷は被曝前に戻るのか
いつの日に安心して帰還できるのか、と
「評」 支援とは、なによりも被災者の気持ちに寄り添うこと。この人の話を聞くことも被災地支援という言葉が印象深い。爽やかな散歩の時間にふいに暗い影が差した。あの黒い袋がなくなるのはいつだろう。見えないふりをして、華やかな光景をテレビで映しても、本当の解決ではないはずなのに。(選者・野本 京子)