ヘルシーハウジングは不可能なのか?

2005-07-29 19:42:46 | 書評
b0978959.jpg「安心して住めるヘルシーハウジング」手塚純一著

家を建てようというのではない。

アスベストの問題を少し踏み込んでみると、建材の安全性というのは重大な問題になっているというのがわかってきた。もともと石綿は、燃えない、丈夫、安価というのが長所だったわけだ。以前の概念には「健康」というテーマはなかったわけだ。それで問題を単純に考えると、燃えなくて、丈夫で安価でも健康被害があるものは、やめよう。ということになるのだが、そう簡単なものではないわけだ。もちろん石綿を追放するくらいは物理的にも簡単な話なのだが、住宅と健康というのは色々とトレードオフが複数発生するやっかいな問題のようだ。

で、このエントリはアスベストの問題に限定せず、もっと先の「健康」のところに進む。さらに著者には申し訳ないが、主に自分の意見を書くことになる。著者自体、住宅問題は難しいことを認められているので、許してもらえるだろう。

まず、健康住宅の概念も二通りある。まずは消極的健康住宅。つまりホルムアルデヒドなどの有害物質を低減させた住宅だ。シックハウス対応というか。さらにバリアフリーなども入れていいだろう。次にステップアップすると、積極的に健康になる住宅というのがある。(ただし、精神的健康というのは多分に建築問題ではないので別問題。やっと戸建を買った、とか、あこがれのログハウスを手に入れた、というので精神的満足を得るのは、ちょっと問題の本質が違う。)たとえば有害物質を自動的にとりのぞく住宅とか、フィルターと換気機能で、空気をきれいにするとか、湿度を50%に抑えるとか。

そして、現代日本で住宅に求められる要素は多い。不燃性、耐久性、だけではなく耐震性、省エネ性、健康性、防犯性、高齢化対応、そして価格については、初期投資額も重要だし、維持保全費も重要。ということになる。が、早い話が、すべて理想通りは無理だ。物理的な素材の問題以前に、例えば、頑丈で、防犯性ということになると、窓の小さな2×4住宅のようになるが、窓が小さいので、通風性が落ちる。暑いので、エアコン頼りになる。エアコンといえば通常25度から28度の間に設定するのだろうが、一つの家には何人もが共同生活しているのが普通だが、人によって好みの温度や湿度が異なるので簡単ではない。吉田兼好は徒然草の中で、「家は夏向きをもってよしとする」といったが、どちらかというと現代の家は「冬向き」対応で夏はエアコン使用になってしまう。

さらに、冬向きにするためには、壁や屋根裏にグラスウールを使うのだが、これも健康被害は心配だ。石の繊維ではなく、ガラスの繊維ということ。床下に小石を敷き詰め、保温対策にする例もあるが、夏は石焼き芋になる。結局、日本は、夏と冬と大きく気象が違うため、どうしてもうまくいかない(うまくいくのは農業だが)。

さらにシロアリ退治に使われていた薬品の中には数年前に、業界が自主規制して中止したものもあるが、あくまでもきちんとした業者に限るし、過去に散布したものの始末はどうなのだろう。また、トイレの温度は室内と同じにすべきといっても簡単ではない。浴室は使用中は高湿度がいいが、使用後はただちに乾燥させるべきだそうだが、これも大変だ。バリアフリーで玄関の段差をなくすと、ごみが室内に上がってくる。布団でなくベッドの方が床からの高さをキープして睡眠中の空気はきれいだが、反対にベッドの下にはほこりはたまりやすい。

住宅の寿命が長くなれば、本来はいいはずだが、その分、住宅価格が高くなり、ローンの期間が増えているだけだと誰のためなのか何のためなのかもわからなくなる。建材用の木材需要がなくなると、森は整備されず、逆に荒廃しそうだ。

ということで、できることは、「有害物質を排除するのが関の山」ということも言えるようだし、「ある程度であきらめてしまうしかない」のかもしれない。というのも、一歩、家を出れば、家の外は、もっとリスクの高い危険地帯だらけ、危険人物だらけ、そして危険組織だらけなのだから。


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