台湾海峡をこえて(アンソニー・ハイド著 飯島宏訳 ミステリー)

2021-05-11 00:00:14 | 書評
台湾海峡についての小説。原題は「FORMOSA STRAITS」。台湾海峡という意味だが、本著の中で海峡をモータボートで密航する話ではない。おそらく比喩的に「海峡」という単語を選んだのだろう。



小説の舞台は主に前半は台湾。香港にちょっと立ち寄って、後半は上海に移る。

ミステリーなので、殺人事件があり、米国人探偵ロバート・ヤングが登場する。ところが、この探偵は主人公ではない。主人公は、殺人事件の第一発見者で米国籍の華僑二世ニック・ランプ。容姿は中国人と同じだ。亡くなった父親の旧友で台湾の裏社会のボスに会いに行くと、既にボスは殺されていた。

ニック・ランプ氏は冤罪になるのをおそれ、台湾内を逃げ回るのだが、あいにく米国人美女のローリーと深い仲になっていた。そして、頼みもしないのにやってきたのがヤング探偵だ。つまり、探偵自体怪しいし、愛人も怪しいところがある。何を信じたらいいのか混乱する主人公。

台湾を舞台にするだけに怪しい日本人が次々に登場。娼婦ユキ・ヤマトとそのボスのイトウ。正体不明の男ウシダ。全部犯罪者だ。なぜか主人公が追われるが、その真意はわからない。

その後、密出国に成功したニックは香港を経由して上海にわたるが、彼の行く先に、台湾で彼を追いかけていたご一同様が登場する。400ページほどの文庫本の中で、彼が追われていた理由がわかるのは、最後の方だ。ヒントは1930年代の上海と毛沢東夫人の江青の若い時の素行。

実はこの本はそういった様々な謀略の重なりによって成り立っていて、結論には納得しにくい点もあるが、現代史にとって気になる話に触れられている。

時は1945年。太平洋戦争の末期に米国が日本への総攻撃を始めた第一歩は沖縄戦なのだが、米国は沖縄戦にするべきか台湾戦にするか検討した結果、沖縄戦になったということが書かれていた。

仮に米国が台湾に上陸し星条旗を立てていたら、どうなっただろう。沖縄のように返したりはしなかっただろう。というか誰に返すのか不明。そのままアメリカの一部になっていたかもしれない。そうなっていたら現在はどうなのだろう。

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