「悪」と戦う(高橋源一郎著)

2020-05-28 00:00:10 | 書評
『「悪」と戦う』、といっても検察庁内の暗闘とは、何の関係もない。単に、本を読んだ時期が麻雀発覚と同じになっただけだ。

さらに「悪」と戦うのは新聞記者かと思っていたら、日本の新聞記者は「あんなものか」と知らしめられることになった。そういえば、デイリー・プラネット紙の記者だったクラーク・ケント氏こそ、本職の記者としても、趣味の格闘技の世界でも「悪」と戦っていた。

当時は「悪」は明解な存在だった。例えば、不法活動を続けるギャング、資本主義の破壊を狙っている共産主義者、白人の権益を狙っている有色人種、無神論者、国境にトンネルを掘ってやってくるヒスパニック、麻薬密売人。

ところが、ベトナム戦争が終わり、中東で戦争があったり、9.11があったり、ソ連がなくなったり、共産党のはずだった中国が超資本主義に走ったり・・



本書は、人間にとっての本源的な「悪」について、少年少女の世界観をもって夢と現実の境目に読者を連れていき、そこで放り出されるわけだ。進路を暗示してくれるのは、現実世界に生まれなかった少女。

2010年に発表された本書だが、著者自体浮遊中の状態のようで、「悪」の実像はチラリとしかみせてくれない。

折から、「自粛破り」「麻雀」「特例定年」「マスコミとの癒着」の複合事案発生中だが、「悪」なのか「善」なのか。国民が自粛したのに、自分の政策が成功したと思い込んでしまう政治家は「悪」なのか「善」なのか。もはや、問うこと自体が的外れのような気もしている。

小説家は無力なのか?

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