たった一人の生還(佐野三治著)

2021-05-14 00:00:40 | 市民A
1992年12月29日にグアム島を目指したヨットレース中に荒天のため転覆し、救命用のライフクト(救命いかだ)で27日間漂流し、7名中一人だけ生きのびたヨットマンによる漂流記であり、実話である。



いわゆるサバイバル物だが、基本的には創作ではなく実話ということで怖い。漂流中は、なぜヨットが転覆したのか、自動的に救助信号を発信するはずのイーパブが動かなかったのか、転覆しても浸水を免れるはずだったのに、なぜ沈没したのかとか「もし・・・であれば」という気持ちが噴き出していたそうだ。

さらに先にヨットともに沈んだ艇長を除く6人がとった生存計画、そしていつまでも来ない救援、一人ひとり力つき、水槽が繰り返される。まさに地獄だ。最後の9日間は一人きりになり、諦念状態になったころ、英国貨物船に発見される。

生存者は罪悪感を一人で背負い込む。遺族を回り、死者を弔いながら遺族と向き合っていく。その結果生まれたのが、本書である。

そういえば、偶然の最初は、著者がこの船にのったこと、いつもの艇、いつものチームではなくクルーが不足していたチームの穴埋めとして急に参加。歯車は少しずつ狂ってきていた。時化(しけ)の中で、行くか戻るか意見が割れ、行くことにした艇長は、真っ先に沈んでしまった。

著者は、これも炎上沈没した加山雄三氏の光進丸のクルーであった。その時にみた暗黒の海で見える夜空の星のすばらしさがヨットを続けた理由だそうだ。